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9 噂と馬車

 ジト目になってクリスがグルマト殿下を軽く睨む。

 その様子をものともせずに、殿下は王者の風格とも呼べるゆったりとした仕草でお茶を口に含んだ。

 ウーガン殿下も軽く謝った後はしれっとご飯を口に入れ咀嚼(そしゃく)している。

 そのカオスな状況に面くらいながら、わたくしも目の前にあるご飯を口に入れた。


 今日のご飯も美味しい。


 特に、今日はちょっとお客さまがいるけれど、クリスやメメットと囲む食事はわたくしにとっては特別だ。

 感謝しながらもぐもぐしていると、不意に視線を感じて顔を上げたけれど、どこから来たものかはわからなかった。


 そうして、「(つがい)」の謎は解け、意外に和やかな食事の時間はベルの音とともに終わりを告げるのだった。




 数日後。


 クリスは砕けて話したのもあって、グルマト殿下とは喧嘩友達になったらしく。


「やぁ、麗しのメルティ嬢。俺の妻候補になりたければいつでも声をかけてくれ」

「お前なら誰でも選べるだろ、メルティはやめろ」


 という掛け合いを朝するのが日課になったらしい。

 恥ずかしいからやめてほしい。

 とは、皇族相手だから言いにくい。

 そのかわりにクリスへと視線を投げるけれど……目が合えばふんわり笑うから二の句が継げないでいる。


 ともあれ、殿下から逃げる必要がなくなったのはありがたかった。

 今は以前していた相談とか励ましを、朝の時間に行えている。

 けれど最近変化があった。

 人数が、目に見えて減ったのだ。


 わたくしの負担は減ったけれど……何かあったのかしら?

 これまで、こんな変化をしたことがないのだけれど。


 不思議を抱えたまま、日々は過ぎていった。







「幸せになれる教えを、誰にでも教えてくれる偉い人がいるらしいよ。奇跡も起こすんだとか。病気が治った人も、婚約が決まった人もいるって」


 いつもと変わらない、中庭でメメットとお昼ご飯をしていた時のこと。

 その日は天気もほどよかったから奥まっていないところで二人、おしゃべりをしながら食べていた。

 するとちょっと遠いところから割と大きめの声が聞こえてきて。


「病気が治る……?」


 わたくし達はお互いに顔を見合わせて首をかしげる。


 我が国には宗教の自由はあれど、近代の新興宗教を許可していない。

 全て古より続く、伝統があるかとか、心の自由が保障されているかといったところで国によって布教の許可を得ている。

 心を安らぐ目的で使用されるべき、との立場を国が貫いているからだ。


「メメット、知っていて?」

「ううん、初めて聞くわ。占い……とかではないわよね、だって病気が治ってるんだもの。それにしても、なんだか胡散臭い話ね」

「気をつけたほうが、いいかもしれないわね」

「そうね。まぁそれより」


 メメットは何か浮かない顔をしていたが、切り替えたのか、また漏れ聞こえる会話より前にしていたおしゃべりを再開させた。


 その日の放課後。

 クリスが、父上に許可はいただいた久々にお茶がしたい、というので、一緒に帰ることになった。


「一緒の馬車に乗るのも久しぶりですわね」

「父上がなかなか許してくれないからな。まぁ、想像するとなんとなし理解はできる。俺は馬の骨ではないが、もし俺に娘がいればやはり心配はするだろう」


 言いながら向かい合って座ったクリスは、馬車の窓から外を眺めて苦笑する。


「メルティを幸せにしたい気持ちは人一倍強いが、俺がメルティから幸せにしてもらってる方が多い。父上の言わんとすることもわからないでもないよ」


 そう言って無邪気に笑うから。


「わたくしだって! わたくしこそ、クリスといてどんなに幸福か。良縁を願う人からよく言われるようになったのよ、『エルンスタ様は最近とてもきらきらしていますね』って」


 つい幸福量を競ってしまった。

 言った後我に返って、気恥ずかしい思いをする。

 彼の方を見ることができなくて目を逸らした。


 沈黙が、馬車の中を支配する。


 やがて我が館へとついたらしく、馬車は馬が少しいなないたのち止まった。

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