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6 逃げると追いかけられる

「いや、俺も詳しいことはあまり。市井についての情報は割とあるんだが皇族となるとそんなには……。噂は聞いた、かな。国民の間で伝承のようになってるのは、皇族は竜の子孫である、とか」

「竜の……?」

「それ以上のことは、皇族についてあまり人の噂にできないらしんだ。それについては悔しいがやつに直接聞くしか無いだろうな」


 クリスは言いきるとアンナの用意した紅茶を一口喉へと流した。


「そうなのね」


 わたくしはその様子を眺めながら、書物で見齧(みかじ)った彼の国のことを思い出そうとする。


 バルバザード帝国――魔術があり、魔獣もいて、奴隷制度のある国。

 暑い国で、砂漠もあったりして人が住む土地としてはそんなに広大では無いらしい。

 けれどウルリアン王国が大陸にあって中規模な部類なのとは違い、帝国は中でも一、二を争う大国だ。

 魔術、というわたくし達では想像しにくい事象を、当たり前に生活の中で使っていて。

 その生活は人の行き来の手段が限られる――隣国はそれこそ王都から往復三週間位を見込まないと訪れることが難しい――中で、正確な情報はなかなか得られる物では無い。


「……情報がない以上、迂闊に動かない方が良さそうです。わたくしはなるべく、マリア達といることに致しますわね」

「そうしてくれると助かる。巻き込んだようですまない」

「いいんですのよ。結構色々なことを経験するの、嫌いじゃありませんし。それに第五皇子殿下はわたくしを『(つがい)』と呼んでいました。どちらかというと巻き込んだのはわたくしの方なのかもしれませんわ。だから……力になってね、クリス」


 わたくしはクリスを安心させたくて微笑んだ。

 それを見て、彼も私にふっ、とリラックスした表情を見せると返事をしてくれる。


「必ず」


 こんな平穏がなるべく続きますように……いいえ、続ける為に努力できますように、ね。


 そう思いながら、クリスとの話し合いは幕を閉じたのだった。




 次の日。

 クリスがやっぱり心配だったらしく、館まで迎えに来てくれた。

 お父様はそのことが少し気に入らなかったようでブツブツ言っていたけれど、昨夜事情を話していたのもあって彼との喧嘩は我慢したみたい。


「行ってまいります、お父様!」

「うむ、気をつけて行ってきなさい。……クソガキ、メルティを守れなかったら……わかってるな?」

「当たり前だ」

「ならいい」


 お父様とクリスは、そんな無骨な会話を繰り広げている。


 本人そっちのけで勝手に決めないで欲しいのだけど。


 そんな思いが浮かんだのを気にしないことにして、わたくし達はクリスの馬車で館を出発した。




 学院に着くなり、人だかりができていた。

 クリスと思わず顔を見合わせてしまう。


 一体何が起きているのかしら……?


 進行方向で繰り広げられているので、自然近づくように歩みを進めると、それは女子の集団だった。

 その中心には――件の第五皇子殿下と、第六皇子殿下がいて女子の質問に丁寧に一つ一つ答えているようだ。

 わたくしはそれを見やった後、クリスへと視線を投げかけた。

 彼は一度深く頷くと、その集団とぶつからないようにと横へ横へと歩いて遠ざかる。

 それに習って横へ横へとわたくしも歩いていたら、何だか不穏な雰囲気を感じて……その方向を見るとバチッと殿下と目があった。


 まずいですわ。


「……クリス逃げますわよっ」


 わたくしは超小声で彼に告げると、ダッシュでその場を後にする。

 クリスはちゃんとついてきてくれて、声がかかる前に無事、教室に着いたのだけれど。

 教室のドアを開けてクリス、ついでわたくしが入ろうとしたところで、


 ダン!


 というドア横の壁に手をついた音と共に荒い息づかいと、わたくしの右手首にはゴツゴツとした男子のものであることがはっきりとした手が、絡みついていた。

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