表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
85/109

5 自室と王子

 殿下は登院中護衛の方を使って先触れをだしていたらしく、帰宅すると執事のレイラードから、クリスが訪問してくる旨を告げられた。

 確定事項として言われたので、わたくしの考えはきちんと彼に伝わっていたらしい。


 嬉しいものですのね、想う人にわかってもらえるって……。


 少しの面映さを感じながら、わたくしは来客の為に自室を整えることにしたのだった。







「メルティ〜」


 今、わたくしは危機に直面している。

 程なくしてやってきたクリスを自室に案内してもらったまでは、良かったのだけれど。


 来客用のローテーブルとソファに対面で座ろう、と思っていたら、何故か彼は隣へと腰を下ろしてしまった。

 そうして、わたくしの名前を少し情けない感じで呼びながら髪を梳いている。


 誰の、って――もちろんわたくしの、ですわ。


 距離が近いし、そんな目で見つめられても困ってしまう。

 そんな、子犬みたいな、けれど撫でられるのを待つかのような……熱のあるそんな視線がわたくしに向いていた。


 話をするつもりでしたのに。


 そう思うけれど、久しぶりの逢瀬に跳ね除ける気は起こらなくて。

 しょうがないが半分、嬉しいが半分で、されるがままになっていた。


 少しして、やりきったのか髪を梳いていた手は離れていく。

 しなければいけないことをするために、必要なことだけどちょっぴり寂しく思ってしまって、こてん、と自分の頭をクリスの肩に乗せてしまった。


 いけない。


 と思った時にはもう遅かったらしい。

 にゅ、っと彼の両手が出てきたと思ったら、両頬を包まれて額だの瞼だの頬だのに、キスの嵐が巻き起こっていた。


「あ、ああああの、待ってくりひゅ?!」


 ……噛みましたわ。


「メルティが可愛すぎて辛い」


 何がストッパーになったのか、今度はクリスがわたくしの肩に額を乗せながら呟いた。

 わたくしは言われた言葉やされたことに羞恥を感じながらも、一生懸命頭を働かせて口を開く。


「あの……クリス、その、こういったことは恥ずかしいけれど嬉しいんです、けれど。今は留学してきている第五皇子殿下のことを……」


 言っている途中で今度はクリスの頭はソファの背もたれへと、移動した。

 仰向けになって天井へと視線をやり、何故か鼻を押さえている。

 風邪をひいたのかしらと心配になって、テーブルの上にある鼻紙を渡すと「ありがとう」と言いながら彼は鼻にそれを当てて顔を背けた。


「体調が悪いようでしたら……」

「ひや、たいしょうふた、……問題ない。というかメルティ、なんで俺に丁寧語なんだ?」

「え?」

「幼馴染には、もっと砕けた物言いだろう? 俺もその仲間に入れて欲しいと、その、思ってて」

「あ……」

「……待とうと思ったけど、我慢ができなくてごめん」

「いいえっ、わたくしこそ! えっと、なんだか気恥ずかしいのとその、お立場がって思ってしまって……気をつけます……じゃなくて、気をつけるわ」

「無理はしなくていい。……けど、ちょっとずつ近づけたら、嬉しい」


 未だにこちらを向いてくれないクリスの顔は見えなかったけれど、ちょっと変えただけでもその声は嬉しそうで。

 わたくしは、これから少しずつ言葉を変えていけたら、と思った。




 しばらくして鼻の調子が落ち着いたのか、クリスは鼻紙をゴミ箱へと捨てにいき。

 今日会うことにした本題について、話し合うことにした。


「……それではほんとに急でしたのね」

「ああ。どうにも向こうでゴタゴタがあったらしくて。事後処理中のはずなんだが、方方(ほうぼう)に皇子を留学に出してる。うちは二人だが、最初三人打診がきた国もあったみたいだな」

「何が目的なのかしら」

「わからん。ただ……巻き込まれると厄介そうな雰囲気ではある」

「クリスは、かの国のことについて詳しいのですか?」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ