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3 縁結びと列

 …………わかっているようで、わかってもらえていませんわ。


 本当に、切羽詰まって、わたくしはお二人に声をかけた。

 勿論、にっこりとした微笑みを顔に貼り付けることも、忘れない。


「お二人とも、今日が何の日かお忘れですか? そして特にグルマト殿下。わたくしまだ名乗らせていただけておりません。……わたくしがした事と差し引きゼロにさせていただいても、いきなりの求婚は取り急ぎお断りさせてもらいますわ」


 ゆっくりとクリスを脇に退けると、わたくしは言い切った勢いでベッドから降り、お二人へと向き直った。

 なるべく優雅に見えるように指先まで気を配りながら、スカートの裾をつまみ淑女の礼をする。

 そうして、二人の動作が止まったのを目の端に確認すると、先生へと具合が良くなった報告をしてそのまま医療室を辞することにした。


 きちんとした挨拶の場を設けてもくれない相手なのだから、こちらだって礼を尽くしきる義理はない。

 そう少し腹を立ててもいたけれど、実のところ心臓はバクバクだ。


 だって、クリスが対応してるってことは五番目とはいえきっと、大切なお客様なのだわ……。


 けれどどうしたって、あれ以上の対応が出来るとは、思わなかった。

 紹介もなしに人だって増えたのだ、許容量はとうに越していて。


 下手を打っていませんように――。


 祈りながら、教室までの廊下をなるべく早く着くように歩いた。




「あ、め、めめめえっ……メルティ、ティ、アーラ様っ、おはようございます!」


 教室に着くと、早速マリアが挨拶をしてくれた。


 一生懸命に、わたくしのお茶目なお願いを叶えようとして……噛んでますわ、ほんとに可愛らしい。


 朝から少し――というよりか、結構危ない目? にあったので、マリアのその素朴さはとても癒されたしありがたかった。


「おはよう、マリア。お泊まり以来ですわね、お手紙のやりとりはしていたけれど、その後元気にしていたかしら?」

「はいっ、勿論です! メルティっ、ティ、様は、お元気でしたか?」

「ええ。夏季休暇中は避暑にも行っていたし、この通りよ」


 わたくしは二の腕に力こぶを出す素振りをした後、マリアへ夏に経験したことを語り。

 マリアはそれを受けて婚約者の方とのお出かけエピソードなどを、情感たっぷりに話して聞かせてくれた。

 そのうちに、先生がやってきて授業の始まりのベルが鳴り響いた。


 ――それにしても、「つがい」ってなんのことだったのかしら?


 聞きなれない単語に、知識の海を泳いではみたものの自身の知る中から意味を見つけることはできず。

 わたくしは先生の声に従って、必要な教科書を机の中から引っ張り出したのだった。




 次の休憩時間。

 夏季休暇前よりも、わたくしの机の前に並ぶ人の数は遥かに増えていた。

 その多さにびっくりしていると、横にそっとマリアが来てくれたのでそれとなく尋ねる。


「ね、マリア。……これは何故ここまで大仰なものになったのか、知っていて?」


 多分わたくしの眉根は寄っていたのだろう、マリアは苦笑しながら、ことのあらましを教えてくれる。


「……なんでも、休み前にあやかりにきた方々へ、夏季休暇の間に良い結果がもたらされる例が多かったようです」


 だからこんなに、とは言わなくてもわたくし達共通の思いのような気がした。

 ひいふうみ、と数えてみると優に二十は超えていて。


 順番札でも配布した方が良いかしら? と、別の悩みまで追加されたけれど、こちらは吉報なので苦ではなくむしろほっこりとした気持ちになっていた。


 とりあえず、お話を聞いていかなくては。


 心の中でそう気持ちを新たにすると、一人めからお話を聞いていく。

 二人程終わったあたりで次の授業のベルが鳴ったので、列に並ぶ人に丁寧にお礼とまた次の時にと約束し、その日のお昼までの休憩はトイレに行く以外は全て、列を捌くのに集中することにしたのだった。

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