表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
踏み台令嬢はへこたれない  作者: 三屋城 衣智子
番外編 王子side
80/109

日常の裏で大臣を断罪する

「兄上、メルティが()められた!!」




 俺が気づいたのは本当に偶然だった。

 最初に違和感を感じたのは、俺が確か(とお)になるかならないかの歳だったと思う。

 彼女に、周りをよく見ていることを褒められて、その後から努めて周りを注意深く見るのが習慣になりだしていた。

 そんな中――とある大臣が時折、他の大人たちからは見えないところで、ほんとに一瞬だけだが眉間に皺を寄せる瞬間があった。


 偶然だったし、多分相手も俺がみてるなんて夢にも思ってなかったんだろう。

 実際大人たちの中にいるときは絶対にそんなことしていなかった。


 小さな違和感は最初気に留めなかった。

 けれど歳を重ねるごとに、その意味を何となく知るようになって。

 影の修行を終え、実務に少しずつ加わり始めた頃には、逐一父上や兄上に報告するようになった。




 相手は海千山千(うみせんやません)の建設大臣だ、尻尾はなかなか掴めなくて。

 そのうち絡め手で相手の娘である、腐れ縁というかひっついて回ってきていたマルガレーテが、俺の婚約者であるかのように吹聴するようになった。

 あくまで、相手がそう思うというだけで、自分の言質は取られないようそれとなく。


 そうして後手にまわるうちに、マルガレーテが一歩先に行動を開始した。

 気づいた時にはもうメルティは俺の手から遠ざかっていて。


 やっと俺はことの重大さに気づいて、一番上の兄上に助けを求めて部屋へと駆け込んだ。




「ノックくらいしなさい」


 すると、落ち着いた、威厳ある声がその場に響く。

 ()いでアッシュ兄上の少し柔らかな声が俺の耳から入り気を少し落ち着かせてくれた。


「どうしたんだい? クリス」

「兄上。……父上は、どうしてここに……」

「ふむ。そうさな、密談するにワシの部屋はどうも最近小蝿がうるさくて敵わんくてな。アッシュリークに場を提供してもらっていたのよ。お前はどうした?」


 あたりを見渡すと、そこには宰相もいて俺は内心驚いた。


「いえ、国の中枢の話でしょうから、俺は……」

「先ほど私の娘の名前が聞こえた気がしましたが、さて、何があったか私としては非常に、知りたいのですがね?」

「ケルヒ、そこなはワシの可愛い息子だ。手柔らかに頼むよ」

「陛下、言っときますけどね。妻と貴方に滔々(とうとう)と殿下の頑張りを()かれたから見て見ぬ振りしていますけど、私としては! とっても! 承服しかねるのですよ!! こやつがメルティたんに近づくのを考えただけでそれはもう」


 父上(心の中でだけそう呼んでいる)が、ご立腹だ。

 影としてメルティを見守ってるだなんて知られたら俺の首が飛びそうだな……。


 まだ何事か俺への怨嗟(えんさ)をぶつぶつと般若(はんにゃ)形相(ぎょうそう)で言っている宰相を、ごめんなさいと心の中で謝りながら、俺は一旦無視した。

 影として動いている中で、メルティの動向を見守ってもらっていることも、俺がたまに見守っていることも内緒にすることにした。


 命は惜しい。


 俺はメルティにまだ、気持ちを伝えきってない、通じるにしても振られるにしてもきちんと区切りが欲しい。


 身勝手な俺は、自分に不都合なことを何とか隠し通しながら、父上ズと兄上にことの成り行きを仔細伝えたのだった。




 結果から言えば、建設大臣の悪事は最終的には暴けはしたが、途中の痛手を考えれば失敗だと思う。

 メルティへの被害を未然に防げなかったのは俺達の、俺の落ち度だ。


 悔しかった。


 後から考えればとても恥ずべきことだったかもしれないけど、俺はメルティの前で泣いた。

 力足らずなのが、これほど悔しいと思ったことはなかった。


 彼女には(うれ)いなく、笑って欲しかった。


 その願いすら、叶えることがこんなにも難しい。

 もっともっともっと!!

 そんな我儘(わがまま)傲慢(ごうまん)さを、メルティは簡単に溶かしてしまった。


 想いに、(むく)いたい。




 それからの俺はがむしゃらだった。

 でもまだ足りなくて、止めきれなかった奴の卑劣(ひれつ)な行動は、彼女をきっと傷つけたんだろう。

 だけど。




 謝らないと決めた。

 彼女が、一緒に手を繋ぎ立って前へ進むと、そう言ってくれたから。




 だから今日も、俺はありったけの愛を、キスに変えて降らすんだ。




 まるで星のように。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] テンポがすごく良かったです! とても読みやすく、サクサクサクサク読み進められました。 クリスのどん引きするぐらいのストーカーぶり、だけど 一途なところも読んでいてほのぼのさせてもらいました…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ