あの子グッズを整理整頓したい
「そうだ。もしも王宮での陰謀などに巻き込まれたら、匿ったり休憩できる自分の部屋があると良いよな。いやまぁそんな謀りはオレが全力でひねりつぶすつもりだが、念の為、だ。念の為」
そう思い立ったが吉日とばかりに十四になってすぐのオレは、執事を呼ぶことにした。
「おい、ジャンはいるか!」
「はいぼっちゃま」
すすすと近づいてきた有能な執事に用件を告げる。
「商人を呼べ、調度品だのの取り扱いが多いところだ」
「……ぼっちゃま、要らぬお節介、という言葉はお知りですかな?」
好々爺のように微笑みながらジャンが言う。
「縁がないうちから王宮に自分の部屋があるなどと、普通の御令嬢なら気絶ものでございますよ。それに、このお部屋は少々ものが多すぎます。はみ出ているものもかなりありますので、お嬢様には少々目に毒なのでは」
「うむ。オレには目に楽しい場所だが…………そうだな、これは、さすがに……どんびかれること間違いなし、かもな」
見渡すと、あの子グッズを綺麗に収納したいがために犠牲になった、元々入れてあったものが、あちこちに堆く積まれている。
なんなら、あの子グッズも集め過ぎてはみ出していた。
想像した彼女の顔が驚きと戸惑いと嫌悪に染まる様に、部屋を見渡しながらはみ出したあれそれに想いを馳せる。
そろそろ準備も佳境だ、そろそろ頃合なのかもしれない。
オレは崖から飛び降りんばかりの決意と、けれどずきずきと痛む胸とを、天秤にかけながら吐血する面持ちでジャンに向かって宣言した。
「規模を縮小し、整理整頓しよう。そして調度を彼女好みにしてひっそりコレクション所蔵部屋兼客間にするぞ」
「……まぁ、妥当な着地点、でしょうな」
やれやれ仕方がない、といった面持ちでジャンが呟く。
うるさい、全部片付けて、万が一十万が一失恋した後の支えがないとか絶望すぎるだろうが!!
……だなんて格好悪くて口に出せるはずもなく、未練がましいのもわかってはいたので黙るしかなかった。
「彼女の幼少期のドレスは、一部をハンカチーフに作り直しを」
「これは……初めて手に入れた彼女の頬についた泥!こんな所にあったのか。名残惜しいが――頬につけた後水に流して今生の別れとしよう」
「刺繍の連作ハンカチはオレの部屋へ。これからはきっと新作を手に入れることも叶うだろうから、思い切って普段使いにするぞ」
「使ってくたびれたクッションは二つまとめて枕への作り替えを。作り終わったらオレの寝室へ運んでくれ」
「あ、後これも同じく寝室へ!」
懐かしい、初めて彼女とデート――ジャンに言わせればただのおしゃべりらしいが――し、語らったその日に一緒に座った切株。
「こんなところに押し込めて悪かったな、何せ流石に自室には友も呼ぶので座られたくなくてな。次はちゃんと使ってやるから、安心してくれ」
オレは久しぶりに会ったその宝物を、手に持った雑巾で丁寧に拭き上げると、丁重に扱うようにと言い含めながら従者へと手渡したのだった――。
――――彼女が嬉しそうにそれに座るのをオレが見るのは、まだ大分、ずっとずっと先のこと。