6 顎の手と私の両手
入学早々濃いい、日だった……。
と、まだ終わりもしない一日の感想を思い浮かべながら廊下を進む。
敷地が広いので、門までがなかなかに遠い。
中央にある広場の春めいた景色を眺めつつ歩いていると、ふっと人影が斜め前からかかってきた。
誰かしら?
陰った方に目線をやろうとしたその時――。
「やあ、こんにちは。君が噂の春告げる君かな?」
…………しかいが、まぶしいわ。
朝うまく逃げきれたと思った相手が、立っていた。
後ろには護衛とご学友数名もいらっしゃるよう。
私は慌てて淑女の礼をとろうとした。
「ああ、そんなに畏まらないで。代表挨拶もしたし王子であることを知っているだろうけれど、ここは学院なのだから、ね?」
クリスフォード殿下はとてもとても眩しい笑顔で、そう言いながら距離を詰めてくる。
しかも右手をこちらへと上げかけているのが見て取れた。
そういえばマリアンヌ様はどうして、わたくしとの握手をあんなに嬉しそうにしていらっしゃったのかしら?
ついうっかり先程の鮮烈な記憶に思考を引っ張られているうちに、顎に手がかかった。
え?
顎に、手……??
瞬時に自分の手をにぎにぎさせたが両方ともスカートの上で動いている。
はっとすると殿下の御尊顔が間近に見えて息を呑んだ。
な、ななななな!!!!