54 わたくしとマリア
時間にするとそんなに長くはなかったのだろう。
けれどわたくしには、永遠にも思えて……。
離れていった時に、寂しい、と思ったのには自分でもびっくりして思わず顔が真っ赤になってしまった。
その後すぐ。
彼は最後の詰めがあると言うのと、わたくしにゆっくり休んでくれとをしっかり告げようとして。
だけど時間切れだったらしく……影の方が来て抱えて魔法みたいにその姿が見えなくなった。
下がったり上がったり目まぐるしかった気持ちに疲れたのか、それから暫くはいつの間にか眠っていた。
寝てすっきりと目覚めると、部屋に夕陽の入る時間になっていて窓の外が黄金色に光っている。
ぐぅ〜きゅるるるるる
そういえば、三時のお茶をしそびれたのだったわ。
思い出すと途端に空腹度が増した気がしたため、アンナを呼んで簡単に支度をしてもらい食堂へと足を向けた。
マリアを迎えた夕食は、それはとても楽しく笑いの絶えない時間となったのだった。
その夜。
自室に戻って寝る支度を済ませると、コンコン、というノックと共にマリアが入室の許可を願い出てきた。
了承すると恐る恐るドアから顔を覗かせ、「眼福!!」と言いながらよろよろしている。
いつもの事なので特に気にせず、ベッドに腰掛けながら自身の右隣をポンポンと叩いて着席を促した。
彼女はおずおずといった体で私の隣に腰掛けると、ありがとうございます、とはにかんだ。
「どうしたの? 何か不足があったなら、なんでも言ってちょうだいね?」
マリアに尋ねると、首をぶんぶん振りながらこたえる。
「いえ、不足はなかったです! お心遣いも、その、ありがとうございました! えっと、お伺いしたのは、つ、伝えたいことがありましてっ!!」
「伝えたい事?」
「っはい! ……多分、なんでこんなに慕われるだろうと、思ってらっしゃるかな〜って思って。気持ちを、聞いてもらいたくて……」
彼女によると、良縁の噂は割と色々なところに広まっていたらしい。
しかも、そこそこ仔細に。
そこで語られるわたくしのお話は、なんだかとっても一生懸命ですごく、心惹かれたそうだ。
「実際、間近で見るメルティアーラ様はとてもお綺麗で、すごく努力家なのがわかって。もっともっと好きになったんです」
直球で好意を寄せられ、何だか嬉しくてむず痒くなる。
たくさん試して、成功したり失敗したことの全てが、報われる気がした。
「ありがとう、そう思ってもらえて嬉しいわ、マリア」
「いえ! こちらこそ、なんていうか、頑張っているのを見ると私も頑張ろうって、思えるので」
えへへ、と照れながらもふっと、真剣な表情になりマリアが続ける。
「ただ、今回のことで、心配になっちゃって……頑張るのはメルティアーラ様のとても良いところですが……私、怖いんです。頑張りすぎて、傷ついちゃわないかって。目の前からいなくなっちゃうんじゃないかって。だから! だから、御力になるには頼りないですけど、困った時にはっ、呼んでっ、くだざいね゙っ」
言いながらマリアは泣いてしまった。
私はそんな彼女をふんわり抱きしめると宣言する。
「わかったわ、困った時にはちゃんとマリアに『助けて!』って言うから、ね」
だから泣かないの、と伝えると共にちょっと拗ねたふりして「わたくしもメルティって呼んで欲しいのに、いつになったら呼んでくれるかしら?」と言ったら、「はわわわわわ」と真っ赤になって固まってしまった。
それから少しだけお互いの……こ、恋人、の、ことをお互いにぽつりぽつりと話して、おやすみなさいをした。