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52 殿下とわたくし

「は、母上……」

「ふぇ、フェリス、これはだな、その」

「だまらっしゃい!!」


 お母様がぴしゃっと遮ると、ひぇっという声を出して二人が正座する。


「怪我人の前で喧嘩をする人がありますか!! ……メルティに、嫌われてもよろしいの?」


 パシン、パシン、と左手に(おうぎ)を打ち付けながらお母様が冷ややかな目で尋ねる。


「良くない、です」

「勿論良くはない」

「ならば自重なさいませ」

「…はい」

「…わかった」


 不承不承(ふしょうぶしょう)ではあったようだけれど、喧嘩がおさまってほっとする。


「じゃもう取り敢えず事件のあらましは分かったわけだし、私とマリアちゃんは三時のお茶にしましょう。あなたは陛下とお話を詰めてきてくださいましね」


 お父様がまだ何かぶつくさ言っていたけれど、お母様はその首根っこを引っ掴んで連れて行く。


「マリアちゃんは私と一緒にメルティの肖像画でも眺めましょう? ふふふ、小さい頃からのコレクションがあるのよ」

「それはとても楽しみです! ではまた夕食の時にメルティアーラ様!」


 と、るんるんスキップしそうな勢いでマリアもその後をついていった。

 影の方はいつの間にか姿が見えなくなっている。

 自室に殿下と二人なのだと思うとなんだかそわそわした気持ちになった。

 殿下は少し思案顔になった後、ベッド脇に来て、ゆっくりと端に腰掛け自身の左後方へ振り向くと、その先にあるわたくしの頬へ左手を添えた。


「ほんとに、無事で良かった」


 ゆったりと、頬を撫でられる。

 なんだか面映くて目線が下がる。


「…そういえば、まだお礼をちゃんと言えてませんでしたわ殿下。影のお方を付けてくださっていてありがとうございました」


 改まって感謝を述べると、彼はわたくしの頬をむにむにしながら少し拗ねた。


「俺とメルティの仲だろう? 礼はいらない。……それに、クリスで良い」


 それに俺の実益も兼ねていたからな、とぼそっと言いながら少し照れている。


 ……そこ、照れるところと違うと思いますわ。


 そうは思ったけれど、惚れた欲目なのかその行動すらも今は愛おしかった。

 ふと、気になった事をこの機会にと、口にする。


「……わたくし、最初はほんとにどなたかとの橋渡しだと思っていましたの。けどお父様とのお話を聞いた後ですと、……その、いつからですの?」

「…ゔっ。それは、だな。〜〜〜〜っあきれないで、聞いてくれるか?」


 頬から手を離すと、殿下はまるで耳を倒した犬のような面持ちでこちらを見る。

 わたくしはどんとこい! の気持ちを込めて返事をした。


「はい」


 彼は中々口を開かなかったけれど、意を決したように声を出した。


「…………最初からだ」

「はい?」

「だからそのっ!…………婚約を申し込む前からだ! ……王族だから、要らぬ圧があると恋の相手にさえなれんだろうなと思ったんだ。だからまず王子様ぶりながら押して、次に誰か思ったふりして引いて、恋の駆け引きを、する予定だった……」


 言いながら殿下……クリス、様は苦笑した。


「まぁ、その作戦は一線を引かれ過ぎてすぐ頓挫(とんざ)したが――」

「わたくしちっとも気づかなくって……」

「君の状況をちゃんと把握していなかった俺が悪い。――結局のところ、俺も恋に溺れたただの男だったって事だ」


 言い終えるとスッキリしたのか、居住まいを正すと真っ直ぐとこちらを見る。

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