50 涙と告白
王命……わたくしがその言葉の重みに思わず呟くと、それを受けて殿下が話し始めた。
「…………その件は元々俺の我儘だ。どうしても婚約者の座は明け渡したくなかった。上手くできると思っていた、実際途中まで問題は起きなかった。だがどうも、拗らせていた俺は……色恋には疎かったらしい。あれよあれよと泥沼に嵌って、…っは! この様だ!!」
吐き捨てるように言うと顔を上げ、殿下がこちらを見つめる。
未だ流れるその涙が、わたくしの為なのだと思うと不謹慎にも心が甘く震えた気がした。
「こんな俺では、婚約解消されても仕方がな「勝手にわたくしのことを決めないでくださいまし!」
思わずベッドに置かれた殿下の手を両手で握る。
「確かにわたくし酷い目に遭いました……。遠巻きにされるのも悲しかったし、痛い思いもしたし、気持ちの悪さは今だって……っ」
言いながら思い出してしまいその恐怖に体がこわばる。
彼は震えを感じ取ると目を見開いた後苦渋の顔をし、けれど決して目を逸らそうとはしなかった。
わたくしはその視線を受け取りながら言葉を紡ぎ続ける。
「…だけどこんな事でへこたれたくはないのです。わたくしのこの、殿下をお慕いしている気持ちは、諦めろと言われて諦められるほど……心変わりをしろと言われて変われるほど……生半可ではなかったのですわ、殿下」
わたくしの初恋は重たいんですのよと、……言ってすぐ、盛大な告白を人の前でしてしまった事に気づいて、思わず固まる。
……この場には、お父様とお母様も、マリアと影の方まで居たんだったわ……
伝えた事に後悔はなかったが、場所には後悔し羞恥に俯きかけると……左手を、ひとまわり大きな手が包み込んだ。
彼の方に目をやると、目は見開かれ頬は上気し唇がきゅっと結ばれ――喜色満面を一生懸命我慢している――といった面持ちになっている。
「…………メルティアーラ、……それは、ほんとうか?」
言うなり包まれた左手がいつの間にか片手で持ち上げられていて、指先に吐息が当たる……殿下の唇が近い。
びっくりして開いた手に今度は唇が押し当てられた。
くすぐったくて手を引こうとしたが、離してはもらえない。
やめてもらえる事を期待して、はい、としっかりと返事をした。
「ほんとうに、俺の事を? 俺の……片想いではないのか?」
それでもなお、夢でも見ているかのように彼が尋ねてくる。
併せて左腕にできた傷に唇を寄せられて、啄む様に食まれた。
その瞬間
ドキャッ!
という音と共に彼の体が横に吹っ飛んでいき、わたくしは大きな体にしっかと抱き込まれていた。
物語も佳境に入っています。
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