49 殿下の来訪
突然どこからか名前を呼ばれ困惑する。
すると――
バン!!
という音と共に天井裏へと続く点検口の蓋が蹴落とされ、目の前に殿下の影と同じ装束の人物が現れた。
驚きに目を見開いていると、彼は最初はゆっくり、けど近づくにつれ焦るように駆け寄ってきて。
わたくしを、かき抱いた。
「……で……ん、か?」
呼びかけると、ハッとしたように離れて一歩下がり、ベッドのそばでくずおれるようにして膝をつく。
ホッとした表情をしたかと思うと次の瞬間には怒りに支配され、次いで――眉毛が下がり、まるで痛みを抱えてぐっと耐えているかのような顔をした。
そして、祈るように両手を組んだかと思うとそれをベッドの端につけ、自分の頭を下げたのだった。
「っ、すまない、メルティ。俺のっ……力が足りないばかりにっ!!」
……殿下は、泣いているようだった。
「気に病まないでくださいまし、それは殿下のせいでは無く、心無い事を実際にしている者の咎だと、わたくし思います」
「だがきっと、それだけなら君はこんな目に遭っていないっ!!!!」
殿下が怒鳴る。
その何かが千切られるような気持ちの入った、強い言葉に私は息をのむ。
「…………実は今、大きな捕物を控えている。そいつらが、あのクソ野郎を多分……唆したんだろう……」
「……何故、わたくしが標的に?」
言葉裏に、学院であれだけ決裂させたのに、という気持ちを乗せて思わず言うと、お父様が口を開いた。
「それは私が説明しよう。……実は秘密裏に、お前と殿下の婚約は結ばれたままになっている。各部署で偽装し婚約解消をした風にはしたが……どうやら酒の席でうっかり口を滑らしたらしい。漏らした者は減俸させておいた」
全く、王命であり秘密裏にと言ったのに右から左に流しおって、とお父様はぶつくさ言っている。