46 守るこころ
「これは犯罪よ! どうしてこんな事を、ルミナリク!!」
こんな言葉をかけたって、彼に届かないだろう事は予測していた。
けれど言わずにはいられなかった。
「昔みたいにガイ様って呼んでくれないのは寂しいな……」
首をすくめやれやれといったように彼が両手をあげる。
「それにしても……ふふふっ。犯罪だって? そんなはずはないさ、僕と君は愛し合っていて、ただ単にここで逢瀬を楽しんでいただけなのだから」
「そんな戯言、誰が信じますの!」
ガイアークは心底楽しいといった風に笑いながら、だんだん、けれど確実に、距離を詰めてくる。
「初な君は知らないんだね。ここはそういった事に使われる場所でもあるんだよ。口伝いで生徒にだけ広まってるから先生は知らないけど、ね」
わたくしは、知らなかった事実を教えられ、青褪める。
――それが本当なのなら、
「聡い君だからわかるよね? ……僕と君が、ここに居てしまっているのがどんな意味を持つのか」
膝が恐怖でガクガクと笑いだした。
座り込んでしまえばもう動けない気がして、必死でどうすれば良いのか考えを巡らせるけれど、思考がまとまらない。
そうこうしているうちに、ガイアークがすぐそばまで来てしまっていた。
「諦めたほうが楽になるよ?」
そう言って両腕を取られるとドアに押し付けられる。
震えすぎて歯の根が合わず、カチカチカチカチという音が耳の奥にうるさい。
「僕ももうすぐ婚約者のいない身になるし、メルティだって今いないだろう? お互い、たっぷり楽しもうよ。……愛してるんだ……」
囁くように言いながら、ガイアークの顔がゆっくりと近づいてくる。
脳裏に、大切な友人と、とても大事で大好きなあの方の、顔が浮かんだ。
――わたくしは、わたくし自身と、わたくしの気持ちを――
「守って、みせますわっ――!!!!」
瞬間的に少ししゃがみかけるような体勢から頭を斜め上方向へ突き上げる。
腕を固定されていたから大した威力は出なかったようだけれど、猫だまし的に怯ませられたから上々だわ。
押さえが外れたので、すぐにドアとは反対側の窓際へと走る。
窓際には、閲覧用に机と椅子が揃えられていた。
わたくしはその内の一つの椅子を手に取ると思い切って持ち上げ、窓に向かって放り投げた。
ガシャパリィィーン!!
大きな音を立てて、窓ガラスが割れた。
「…っなっ…!」
ガイアークの息を呑む声が聞こえる。
驚きのあまり追いかけるのを忘れた彼がようやっと動き出すのを背後で感じながら、慌てずしっかりと鍵を開ける事に集中した。
カチリ、と音がなり鍵が開く。
その事にほっとしながら割れた窓を開けると窓枠に足をかけ後ろを振り向いた。