45 相談事と結果
その日の放課後、わたくしは約束した第三図書室を目指して歩いていた。
ケンウィットは用事があったし、リリッサから人には知られたくない相談だと言われたので、今は一人だ。
学院はその生徒の数もさることながら、併せて施設も充実している。
図書室もそのうちの一つで、第一は主に現在流通していたり人気のある書物が、第二は先生や研究者向けの専門書が、第三はそれ以外のほぼ動きのない一般の書物が所蔵されており、ほぼ書庫と化している。
これとは別に希少書物などを収めた書庫もあるというから、驚きだ。
第一の、図書室としてはざわざわした空間を横目に、わたくしは第二の先にあるしんと静まり返った部屋へ辿り着いた。
中を覗くと居眠りしている貸出の職員が一人いるのみで、誰もいないようだ。
「確かに、相談事をするにはうってつけかも知れないわね」
そう独り言を言いながら、背表紙を眺めつつ書架の間をぷらぷらして待つ。
「リリッサ、一体何があったのかしら……」
「……やあ、奇遇だねメルティ」
ピチャァッ…
いきなりガッと左肩を掴まれ昔はよく聞いていた声がした途端、不快な音と共に右耳に生暖かくざらっとした感触がした。
「………っ!!」
余りの悍ましさに体が動かせないでいると、相手は気を良くしたのか右手を腰の前にやりわたくしの体を抱き寄せると、ゆっくりと耳朶を嬲ろうとしてくる。
その瞬間わたくしの全身の血は怒りに燃えた。
グッと下方向に体を下げ右足を前に出す。
上体が下がった事を勘違いしたのか胸を触られた。
その瞬間、私は両掌を組み渾身の力を振り絞って左肘を後方に繰り出した。
「――っせいっ!!」
「っガハッ!!」
後ろに吹っ飛んだのを気配で確認すると、
「先生! 先生!! 助けてくださいまし!!」
と言いながら駆け出し、書架の間を追い付かれないようにしつつ入り口まで走る。
入り口まで逃げられれば大丈夫だと思いながらそこに辿り着くと、なぜか職員の先生はおらず、来た時に開け放たれていたドアも閉じられていた。
――もしかして――
悪い予感がしてその引き戸の取手を引いてみるが、鍵が掛かっているのかびくともしなかった。
この事を知っていたのか、遠巻きにゆっくりとこちらを目指しながら、彼が言う。
「あれ、もしかして鍵が掛かってるのかい? 僕と二人閉じ込められてしまったねぇ、メルティアーラ」