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43 石像と刺繍

 その後も自分の婚約者との馴れ初め話とか、どんなお相手が理想かとか、わたくしにとっては初めての“恋の話”というものをわいわい言いあって、時間一杯まで楽しんだったのだった。

 その夜はなんだか普通の令嬢のような一日だったわねと、ベッドに入るとぬいぐるみを抱きしめ、へにゃっと相好を崩しながら眠りについた。


 何だか、いい夢が見れそう――――。







 ――――その日の夜。

 主人達に命令された誰かと誰かが、王都の闇深くで金貨と小瓶を交換した。







 次の日、わたくしは早朝の鍛錬を再開していた。

 アルベルトは宣言した日からとてもよく頑張っていたらしく、その成長に目を見張る。

 昔一緒にドラゴンごっこをやって、ドラゴンとして勇者である弟を返り討ちにして追いかけ回していたのも、もう遠い思い出になっていくのだろう、と思った。


 わたくしも、うかうかしていられないわね。


 弟の姿に刺激を受けると、いつも以上に丁寧に一つ一つ、動作を確認していく。

 久しぶりだったので程々といったところで、弟とさっきのはあーでこーでと話しながら庭を後にした。


 今日の朝食は、料理長が庭で育てた鳥の自家製ハムだった。

 あなたの尊い命は、わたくしの血肉として生かしてみせる……と心に誓った。




 学院に着くと、わたくしの机の前には数名が列を作って待っていた。

 最近だんだんと目にするようなってきたこの光景は、どうやら石像としての効果の実績の結果らしかった。


「おはようございます、皆様」


 かけた声へ朝の挨拶が返ってくる中、わたくしは、せめてこの方達の勇気の一端(ひとはし)になれます様にと祈りながら、握手や相談事に応えるため自身の椅子に座るのだった。


 本日の授業は刺繍だった。

 だんだん大きな図案を練習するようになってきて、わたくしには少し難……正直にいうと、大分難しい。

 取り組む時間が増えるにつれ、どうにか指に針を刺す回数は減っていっているけれど、求める絵にはなっていない。

 だけどそのままなのは悔しいので、友人にもアドバイスを貰ってちょっとずつ……ほんのちょびっとだけれど、褒めてもらえる箇所が増えている。


 このまま向上していけば、いつかは贈り物ができるかもしれないわ。


 そんな事を思いながら熱心に針と糸で格闘していると、横からため息が漏れるのが聞こえてきた。

 今日隣に座っているのはリリッサだ。


「リリッサ、どうかしたの?」

「…え? ああ、ええそうなの、少し糸を引き戻して、縫い直そうかしらどうしましょって、考え込んでしまったわ」


 リリッサはそう言ってわたくしににこっと笑った。


「そう。お互い納得のいくものができるといいわね」


 力量の関係で助言できないわたくしが、無難な合いの手を入れたのとちょうど同じ頃合いで、ベルが鳴った。

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