42 木陰とちっちゃな食事会
舞踏会まで後二週間となって、学院内のざわめきもひときわ大きくなっていた。
わたくしたちは授業のダンスで足を踏み合って笑い転げたり、頭の上に本を置いてまっすぐ歩く練習で何冊積めるか競う、などして忙しくも楽しい毎日を送っている。
今日は昼食の時間を使って、木陰を陣取り、お茶会ならぬちっちゃなお食事会を開いていた。
メメットが開会にひと声あげる。
「さて、見知った方もいらっしゃるけど、まず各々自己紹介しましょう!」
ぱん!と両手を合わせると彼女は続けて自己紹介をした。
「私はメメット=シルヴァーナ、公爵家の次女よ。婚約者は募集中だから、舞踏会パートナーは、級友のよしみでフレッド=バーグナーに頼んでまーす」
言い終わるやいなや乾杯はすませてあったので、彼女はもきゅもきゅと御飯を食べ始める。
「私はマリアンヌ=ボヌルバです。侯爵家長女です! パートナーはメルティアーラ様のお陰もあって、アルレイド=キルシュ様と出る予定です!!」
マリアは何故かぽぽぽぽぽと頬を染めわたくしを見つめ続けている。
それを受けた形でわたくしが次に口を開いた。
「わたくしは悪名高い踏ん付け令嬢、メルティアーラ=エルンスタですわ! もう数えて十三回程殿方をぐりぐりしてますの」
できる限り高飛車に、表情も家で何回も練習したにやり、という感じになるよう努める。
「……ぶはっ!」
メメットが御飯を吹いた。
うん、仕上げは上々ね。
令嬢としてはしたないという言葉は置いておく、だってやっぱり気のおけない友人との語らいは、笑い合っていたいんだもの。
わたくしはしてやったりとイイ笑顔になりながら続ける。
「婚約者は踏ん付けてペラペラになってしまって、ダンスが踊れませんの。今回は代打で、年下の婚約者のいらっしゃるケンウィット=ガルツァーにパートナーをしてもらいますわ」
言い切ってツンとすます。
今度はマリアが紅茶を吹くまいと、口をすぼませ頬がまるで冬眠前のリスの様だ。
リリッサがくすくす笑いながら、次はわたくしの番ですわね、と口を開いた。
「リリッサ=ヴァニラテですわ。男爵家の次女でございますの。ガイアーク=ルミナリク様と婚約してまして、今度の舞踏会も一緒に行く予定ですわ」
そうふんわりと笑いながらドレスももう出来てますのと、併せて話す。
それから暫くドレス談義に花が咲いた。
ひとしきり話しきると、マリアがそれにしてもと話題を変えた。
「私噂って根も葉もないことも多いのかもって、メルティアーラ様の噂を聞き続けて実感しました。恋の噂とか好きだったんですけど――思ってもみないことが正解みたいに言われるって、なんか、悔しいし悲しいものですね」
「私は自分のだったらむしろ楽しんじゃうかな〜、逆手に取れそうな情報はうまく活用!」
令嬢らしからぬことをメメットが言う。
マリアが、抜け目がなくって素敵……と何だか敬いがすごい。
「……最初はちょっかいをかけてきた殿下を振った、っていうだけでしたのに……あれよあれよと、唆したのはメルティだ、っていうものから、最近はガルツァー様が毒牙にかかった、ですものねぇ――わたくしも、怖いなって、思いますわ」
そう言って、リリッサは、気弱げに微笑んだ。