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36 賭けと友人

 てっきり瞬く間に広がる噂を聞きつけてメメットがやってくると思っていたけれど、彼女は現れなかった。

 不思議に思いつつも自分から迎えに行くことにする。


 ケンウィットが少し遅れてだがついてきていた。

 やはり律儀に護衛をしてくれるつもりらしい。


 教室に近づくと、何やらガヤガヤとやけに賑やかだ。

 まだ授業中なのかしらと思いながらも足をすすめると、


「ちくしょー殿下のあんぽんたん! 今更幼馴染とより戻しかよぉ」


 という声と共に男泣きしている男子生徒の嗚咽が聞こえた。

 何故殿下?という不思議と共にドアを開けると――


「……さて、大穴も大穴突如彗星の如く現れた殿下の幼馴染にかけた皆様! 馬券の用意はよろしくて? 今から配当配りますわよ〜!」


 と言いながら、黒板に何やら細かな数字が書いてある教壇のその前で、大量の札束を配るメメットがいた。




「んもう、メメットったら呆れたわ。わたくしを出汁(ダシ)に賭け事をしているだなんて」

「てへっ」


 段々と定位置になりだした木陰に座りながらわたくしが呆れ顔をしていると、メメットは悪びれもせずぺろっと舌を出しながら良い出汁もらいました!とウインクしてきた。

 彼女がそんな表情をすると本当に可愛らしくて、強く言う気が失せてしまう。


「少額の賭け事は法の元できちんと許されているとはいえ、無茶だけはしちゃ嫌よ?」

「わかってるわ! ちゃんとお小遣いの範囲内で設定しているから、あまり心配しないでね」


 そう言いながら早速お弁当の包みを開いたメメットは、まず学院名物分厚くでっかい卵焼きを一切れ全部口に入れると、もっぎゅもっぎゅと噛み締めていた。


 ケンウィットはやはり少しだけ離れたところに腰掛けて、婚約者に持たされたであろうお弁当と、大量のパンを広げて食べ始めていた。

 男子の空腹って凄いわ……。


 感心していると、メメットが少しだけ声を(ひそ)めて聞いてきた。


「で。噂の真相は? 春告げる君」

「その言葉、まだ引っ張る気なの? メメット」

「だぁ〜って、凄く愛しげに聞こえるんだもんこの単語」


 言われて朝のことを思い出してしまい私は思いっきり恥ずかしくなった。


 鏡を見なくてもわかるわ、わたくし今首筋まで真っ赤に、なってる……。


 それを見た彼女は訳知(わけし)り顔で畳み掛けてきた。


「ほー、そっかそっか。いやあ春だねぇ、青春だねぇ」

「〜〜〜っもう! メメット! からかわないでったら!!」

「――けどさ、噂の方はメルティのその状況とは違って、殿()()()()()()()()()()()()()()()、っていうのが大半じゃない? どうするの? あれ」


 急に真面目な顔をしてきかれる。

 わかっていた事だから、伝えられることだけを大切な親友への言葉にした。


「わたくし、その、……でででで殿下を、お、…………お慕い、しているの。けど……わたくし、このまま静観(せいかん)するつもりよ」

「うーん……仔細(しさい)はわからないけど、なんとなくは理解したわ。子狐には私も因縁があるし、できる限りいっちょやってやろうじゃないの! ……メルティは一人で頑張ろうとしないのよ?」


 そう言うとメメットはニヤリと少し悪い顔をしながら開いた左の手のひらに右手を何度か打ち込んでいた。

 子狐?……何だかどっかで聞いた言葉だわと思いながらも、その様子に、胸に温かいものが灯るのを感じていた。

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