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31 イブリスの花

 療養は更に二日を要した。

 家の者が何くれと世話をしてくれて、面映(おもはゆ)かったけれど久しぶりに思いっきり甘えた。


 療養二日目にはメメットと、ケンウィットがお見舞いに来てくれた。

 メメットはわたくしがぬいぐるみ好きなのを知っているから、大きめで一緒に寝れる子を。

 ケンウィットは婚約者が選んだのだという花束をくれた。

 今度お礼状を書かなければ、と頭のやることリストに書き加える。

 ――けど、あんまり過度にはならないようにした方がいいかもしれないわ、こちらに罪悪感…のようなものを抱いてらっしゃるみたいだし。

 簡素にする、ともリストに付け加えた。


 殿下からは一輪の白いイブリスの花と、芋虫の絵のついた授業をまとめたノートが届いた。

 そういえばと思い出す。

 いつだったか第一王女殿下がお茶会の勉強をするという事でお呼ばれした場で、芋虫付きのイブリスの花束をいただいたのだ。

 触れないけれど、緑の体が丸っこくふよふよしていそうな感じだったので、可愛く思って見つめたのを覚えている。

 他の御令嬢は気絶したり、腰を抜かしたりしていたわね。

 主催の王女殿下は、殿下に御冠(おかんむり)で、殴らんばかりの勢いで追いかけ回してらした。

 くすりと微笑むと、指先で芋虫の絵をそろりとゆっくりなぞった。


 その日の夜にはお父様に呼ばれた。

 執務室で対面すると、お父様はもうおおよその事は知っていらっしゃるようで、重々しく口を開く。


「大体のことは報告を受けている」

「わたくしの力及ばず…お恥ずかしい限りですわ」

「私はいらぬ喧嘩は買わぬ。だが可愛い娘とあっては話は別だ。あそこの娘にこれまで思うところは無かったが、あそこの女狐とは少なからず因縁もある。お前が望めば良いようにするが、どうするかい? メルティアーラ」


 さりげない爆弾発言を織り込みながら、お父様がわたくしの気持ちを尊重してくださる。

 何があったのかしらマルガレーテ様のお母様と……。

 不穏な言葉に想像が膨らみそうになるのを押さえつけ、わたくしはこたえた。


「それでは、お怪我をさせてしまった事をお父様を介して謝罪と治療費などの取り決めを。()()()()()()()()()という形を避け、事故であり私は反省している、という旨をしっかり先方に伝えていただければ、と考えております」

「……こういう時くらい、甘えてくれても良いのに」


 お父様が口を尖らせながらぶーたれている。


「いえ、学院内のことですし、あまり大きなことにしたくもないのです、お父様。この対応で駄目でしたら、その時はしっかり甘えますわ」


 そう言ってにこりと笑えばお父様ももうそれ以上は言わず、けれど「メルティが危ない目にあってはいけないから対策はがっつり取るからね!」と鼻息荒く宣言するのには、断ると暴れそうなので了承の返事をしたのだった。

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