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30 熱望とスープ

 あれからもう四日も経ってしまっているのね……。


 わたくしはまだ正式な謝罪をしないままだったことに思い当たり、憂鬱になった。


 それと共に自覚した気持ちと、倒れる直前に聞いた会話まで思い出して、心臓が絞られるように苦しくなる。


 ――これが、今までなんとはなしに聞いてきた、相手に恋い焦がれ熱望する気持ち、なのだわ――。


 これまでの婚約者たちは、こんな気持ちだったのかと思いを馳せる。


 これでは、藁をも縋りたくなりますわね…わたくしだって、どこかに藁がないかしらって、思うもの。


 ……けどこれは、きっと伝える宛の無い気持ち。


「せめてわたくしくらいは、この気持ちを大切に思っても良いでしょう……?」


 わたくしは記憶の片隅に座る彼に、寝転がったまま独りごちた。



 暫くして、果実水と野菜がすりおろされたスープを、アンナが持ってきてくれた。


「食べる前に、飲み物をゆっくりで良いので、口に含んでくださいね。お腹がびっくりするといけませんので」

「ありがとう、果実水をもらえるかしら」

「畏まりました」


 言いながら起き上がると、手に果実水の入ったコップを渡される。

 くいっと一口飲むと、口いっぱいに果物のみずみずしさが広がった。


「もう少ししたら、旦那様が帰宅なさるそうです」

「そう。心配させてしまっただろうから、御免なさいしたら、うんと甘えてしまわないとね」


 くぴくぴ飲む合間にそう答えると、わたくしは窓の方を見た。

 外の空は清々しい空気をうつしたかのように、青く澄んでいた。




 どうにかスープを飲み干したところで、お父様が帰って来て抱き締められた。


「メルティ〜〜〜〜〜〜!!!!!」


 帰宅したお父様は顔を見る前から号泣していたみたいで、目は泣き腫らして真っ赤な上腫れているし、鼻の下は鼻水でグジュグジュだったのか擦れて赤くなって血が滲んでいるようだった。


 一体どれほどの期間泣きっぱなしだったのかしら…申し訳なくて眉毛が下がる。


「不肖メルティ、ただいま帰りましたわお父様」


 少し芝居がけて茶目っ気を込め、続けて目覚めるのが遅くなってごめんなさいと伝えると、お父様の涙腺はいよいよ崩壊した。

 うおんうおん泣きだしてしまったお父様に、この人の娘に生まれてよかったと、改めて思う。

 大切にしたい。

 家族を。

 わたくし自身も。


 胸に宿った一粒の星が。


 きらり


 光った気がした――――。

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