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29 目覚めと感謝

 ピチチチチ、ピチチ。


 ――小鳥の声が聞こえる。


 喉が渇いたわ。


 水が飲みたくなって目を開ける。

 布団はぐっしょりと寝汗で酷いことになっている。


 ――わたくしたしか、雨の中歩いていて――。


 気づいてがばっと起きようとしたら、勢いよくずべしゃっとベッドから落ちてしまった。

 その衝撃で、左手の傷がズクリと痛む。

 見れば湿布が貼られた感触と、綺麗に包帯が巻かれていた。


「お嬢様!!」


 青褪めたアンナが駆け寄ってくる。

 痛いところは?何か欲しいものはと矢継ぎ早に質問され、取り敢えず水が欲しいと答える。

 自力では戻れそうになかったのでそう告げると、アンナは男手と果実水を持ってきます!と慌ただしく部屋を出ていった。


「奥様! レイラード様!! お嬢様が目を覚まされました!」


 ――わたくし、だいぶ大事(おおごと)にしてしまったのでは――?


 床でぼーっとしていると、お母様とレイラードが来た。


「メルティ!!!」


 お母様が床に膝をつくとわたくしをぎゅうぎゅうとこれでもかと抱きしめてくる。

 そして満足したのか、次は両手でわたくしの頬を包み込んだ。


「ああメルティこの子ったら心配させて!! あなた重い肺炎でもう三日も目を覚まさなかったのよ? ――もう一、二日目が覚めなければ……っ」


 お母様はまたさめざめと泣き出してわたくしを今度はゆるりと抱き締めた。


「御免なさい、お母様」


 わたくしはお母様の背中に手を回すととんとんとしながら、申し訳なく思って謝った。

 ――抱き合ってどれくらい経っただろう。

 その様子を見守っていたレイラードが、場が落ち着いた事を確認すると口を開く。


「……奥様、床は固うございます。お嬢様をベッドにお運びいたしますので、失礼しても?」

「そ、そうね。まだ病み上がりなのですもの、しっかり養生させなくては。お願いできる?」

「畏まりまして。お嬢様、失礼致します」


 そう言うと私をお姫様抱っこでひょいと抱え、ベッドに下ろし、布団をかけなおしてくれた。

 レイラードは一連の作業が終わると、なぜかふふんといった表情で天井の方にちらりと顔を向けていた。

 いつの間にか、アンナがシーツを替えてくれていたらしい、布団はふかふかになっている。


「レイラード、アンナ、いつもありがとう」


 わたくしのことを想ってしてもらえる行動がとても嬉しくて、自然と口から言葉が溢れる。


「お母様も、ありがとう。あまり寝てないのじゃなくて? お母様が倒れないか心配だわ」

「もう!あなたは今日は気遣いなしよ!! それはメルティのとても良いところだけれど、自分の体も労っておあげなさい? じゃないと母さま泣いちゃうんだから」


 おどけて泣きまねをつけてお母様がわたくしを(いさ)める。

 言いつけに、きちんと従いますと約束をして、何か食べるものを持ってくるわねという母とレイラード達は一旦退室した。

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