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23 噂とBランチ

 リリリリリリリ。


 昼食の時間のベルが鳴った。

 今日メメットは家の用事でお休みのようで、一人でどこで食べようかとふらふらと教室を出た。

 すると何故か、廊下の生徒達がこちらを見ると何か苦虫でも噛み潰したような顔をして、ヒソヒソしているのが見える。

 それは学院の全てではないようだけれど、食堂へ行くまでの道すがら割と多い頻度で見受けられ、戸惑う。


 わたくし、何かしたかしら――。


 訝しみながらも、心当たりがない為気にしない様にしつつ食堂に着いた。


 食堂はもう結構な生徒の数でごった返していた。

 あちこちで歓談している姿が見受けられる。


 わたくしはメニューをCランチに決めると列に並んだ。

 すると前に並んでいた二人組の男子生徒の口からわたくしの名前が出た気がして、つい耳をそば立ててしまったのだった。


「……それにしてもエルンスタ様はえげつないよな、きいたか? あの噂」

「聞いた聞いた、なんでも第三王子殿下の婚約者にはマルガレーテ様が決まっていたのに、横取りして婚約者になったってんだろ?」

「その話聞いて、中庭で泣いてたって。マルガレーテ様」

「俺はエルンスタ様が嫉妬してマルガレーテ様を廊下で突き飛ばしてたって聞いたぞ」

「それは俺も、見てたやつから聞いたぜ」

「高貴な方でも、女の嫉妬って怖えのな」

「だな。俺聞いて震えたぜ」


 ……なんの、こと?


 心臓が早鐘のようにドクドクなっている。


 わたくし、突き飛ばしてなんて……そういえば、確かに今朝あの方とぶつかりはしたわ。


 けれど、見ればお互いぶつかったってわかる………そこまで考えて、彼女が言った言葉を思い出し、冷や水を浴びた様な気持ちになった。


 ――傷ついて、らっしゃるんだわ――わたくしが、無闇に親しげにしてしまったから。


 わたくしは、間違えた――――。


「ほら見ろよ、仲睦まじく一緒に食事なさっているぜ」

「入学して割とすぐからだろ? あれ」


 男子生徒がなおも噂している。

 わたくしは見なければいいのに同じ方に顔を向けた。

 そこにはマルガレーテ様と、ひーひーと馬鹿笑いをしている殿下が、いた。


 なんだが世界がぐらついた気がしたけれど、順番が来たのでどうにか口を開く。


「……Cランチ、を……」

「Cランチの列はあっち……おや、顔色が悪いねぇ。調子が悪いんじゃしょうがない。ほら、Bランチだよ、気をつけて持っていきなよ」


 メニューを間違えたのに気づきもせずにトレイを受け取ると、俯きがちに席を探す。

 たくさんの生徒で溢れているから、席はなかなか見つからなかった。

 と、


「危ない!!!」


 ガチャァァァァン!!


 誰かにぶつかられて体に力が入らなかったわたくしは、派手に転んでしまった。

 トレイを最後までなんとか維持しようとしたせいで左手首がズキズキと痛む。


 何が起こったのかわからなくて視線を上げるとそこには――――



 Bランチの熱いシチューが足首にかかった、マルガレーテ様が、いらっしゃった。



 キャーッ!!という周りの女子の悲鳴とマルガレーテ様のうめき声と周りのざわめきが、どこか遠くで聞こえる。

 青褪めたわたくしはひたすら申し訳ございません、と繰り返しながらシチューを拭って誰かから渡してもらった氷水をかけるしかなくて。

 けれどもそのわたくしの言動にも、酷くマルガレーテ様は怯えていらして。

 殿下が慌ててマルガレーテ様を抱えて医療室へ連れて行った。



 御二方が居なくなると、途端に食堂はシーンとした。

 わたくしは割れた食器を片付けなくてはと、しゃがみ込み膝をつきながら欠片を回収していった。

 カチャリガチャリと、陶器の擦れる音がやけに響く。

 無器用だからか、指に傷を作りながら片付けていると、食堂のおばさまがちりとりと箒を貸してくれた。

 こういう時に優しくされると、泣けてしまうからとても嬉しいけれど少し困ってしまった。

 わたくしが泣くわけには、いかなかったから――。

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