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18 きゃるんとキラキラ

 次の日の朝。

 雑念を払いたくて、三つ上のお兄様にお願いして鍛錬の相手をしていただいた。

 久しぶりだから、勝手を思い出すのに時間がかかったけれど、やるうちに体も動くようになって思いのほかすっきりとした。

 毎日の日課にしようとおねだりしたら、弟と交互に相手をしてくれることになった。


 優しい兄弟を持てて、わたくしは幸せ者だわ。


 軽い湯浴みをした後食事に向かう。

 どこから話がいったのか料理長が奮発してくれたらしく、とろっとろのスクランブルエッグが朝食に出た。

 これからを思う不安な気持ちはいっぺんに吹き飛んでしまった。


 これまでだって、どうにかなってきたんですもの……今回だって、何やかんや試してみるだけ、よね。


 気合を入れて行ってきますの挨拶をして館を出た。




 ――どうしてこうなってるの。


 今日のところは机に変化はない。

 これは当たり前のことだわ。

 けれど、わたくしの机の周りだけ人口密度がみっちみちになっていた。


 机の左手側には、ここが定位置ですものと言わんばかりのマリア。

 正面には神々しくキラキラとした第三王子殿下がニコニコしつつも少し不穏な空気を醸し出している。

右手側には――――


「おはようございます、王子殿下。おはようマリア。おはよう、久しぶりね。違うクラスだったと思うけれど、何か用事でもあったの? ケンウィット」


 それぞれに挨拶をしつつ自分の机に向かいながら、思いついた疑問を本人にぶつけた。

 三人それぞれ挨拶を返してくれる。


「おはよう、麗しのき「おはようございます! メルティアーラ様!! 今日も素敵です」


 殿下のご挨拶を遮ってはダメよマリア。

 きゃるんとかわいらしくこちらを見ているけれど、それは殿下には通じないかもしれないのよ。


 心の中で突っ込みつつも、聞いたら真っ赤になっていただろう美辞麗句を思い、後日お礼のクッキーでも贈ろうと決める。

 右側にいる鋼のような濃い髪に新緑色の瞳をした筋骨隆々気味の美丈夫は、ややあってやっと口を開いた。


「……挨拶を、し忘れていたことに、今朝方思い当たった。」


 寡黙な幼馴染は、ただ挨拶だけに来たらしい。


「……困ったことがあったら言え、必ず、助ける。」


 そう言うと踵を返して去っていった。


「恩とかはもういいって言ったのに。婚約者の方に誤解されるのは嫌だから、気持ちだけ受け取らせていただくわね!」


 まさかほんとに挨拶だけとは思わずその背中を送りかけてしまったので、慌てて声をかける。

 聞こえたかしら……少し不安になりながらも、一番の問題へと、向ける気持ちを奮い立たせた。

 その横で、何やらマリアは殿下と仲良くなっている。

 しまった、話の内容を聞いていなかったわ。


「こんなに話のわかる御令嬢がいたとは! 今度、私のコレクションの前で是非とも語らいたいと思うのだが、どうだろうか」

「私もです!友人に話してもいまいちピンと来てもらえなくて。またお話ししたいです殿下!」


 きゃっきゃとはしゃぐ二人の様子に、わたくしはぴこーん!と閃いた。

 パズルのピースがはまっていく音がする。


 これならあのお話受けても大丈夫ですわね。


 心づもりと共に気持ちも軽くなり落ち着いたので、お話が一区切りついたところで王子殿下に話しかけることにした。


「殿下自らご足労いただき、ありがとうございます。お話が、おありでしょうか」

「ああすまない、盛り上がってしまって当初の目的を遂げてなかったね。昨日話は聞いただろうか?」


 話しながら殿下はさっきまでケンウィットがいた場所まで近づいてきた。


「はい、父から話は聞いております」

「それで、その……不躾とはわかっているのだけど、返事を直接、聞きたくて……」


 眉を下げた殿下はとても不安そうな面持ちで、潤んだ目はどこか子犬のように思ってしまい。


 うっかりと。


 ほんとのほんとにうっかりと、してしまった。


「お受けいたしますわ、王子殿下」


 その途端。

 ぱぁぁぁぁ!と喜色満面の顔が見えたと思ったら右手を取られ、ふにゅっとした感触と共に、嬉しさを滲ませたその深海のような瞳でわたくしを少し見上げ、殿下は囁いた。


「ありがとう。幸せにするよ、愛しの君」


 教室はどっと沸いた。


 わたくしは下手を打ったことに気づいて、顔を真っ赤にした後少し青ざめる。

 まさか殿下が、こんなに芝居がかった計画でいるなんて思いもしなかったのだ。

 まだまだ若造なのだわ。

 少し悔しく思いながらもそれを隠して微笑む。




 その様子を、ドアの陰から熱くドロドロと見つめる視線があるなど、誰も気づかなかった――――。

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