11 過去の婚約
思い返せば――最初の婚約は九歳の時だった。
その頃のわたくしは王子様とお姫様の物語が大好きで、寝物語によくせがんではお話の最後にはじぶんもおひめさまになる!と息巻いて、興奮して寝つかないような子どもだった。
今思えば、お母様きっと大変だったでしょうね。
婚約は結婚する約束事だと教えられて、相手の事を王子様だ!と思って何をするにも一緒にしたくて、騎士様になりたいって言っていたからそれはもう一生懸命修行した。
けど一緒にい過ぎたからか、婚約解消ごろには気のいい仲間、みたいになってしまっていて解消にも二つ返事で了承した。
彼とは今でも仲の良い幼馴染でいる。
二度目の婚約は十二の頃。
恋に恋する年頃で、二つ年上のお相手がなまじ格好が良くて優しかったものだから舞い上がってしまっていた。
やはり何くれと一緒にいようとして――ある時本音をうっかりこっそり耳に入れてしまった。
何のことはない、彼は公爵家との縁が欲しかったということだった。
しかも、やれ出るとこ出てなくて貧相だの、愛想が悪いだのなんだのと罵詈雑言までついていた。
ひと通りのわたくしの悪口を聞きすぎて、流石にその日の晩はおやつしか口に入らなかったのは、今では笑い話のてっぱんになっている。
――今なら言い返せますわ、そこそこ育ちましたのよ!って。
彼ともなんやかんやあって結局婚約は解消した。
知り合いのままでいたくなかったので今はやりとりがないけれど、その時知り合った彼の新しい婚約者がとても良い子で、彼女とは今お友達だ。
その後も婚約しては解消して……。
続いている縁もあるからか、気分だけは何だか成長を見守ってきたお母さんの気分なのかも知れなくて。
自分に良縁が来るなんていう感情に、ぴんとこなくなってしまっている。