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25 全裸の男たち

 二頭はものすごい音量で鳴きながら、ジリジリと距離を縮めている。

 と、わたくし達に近い方が歩く速度を上げた。

 もう一頭へと肉薄し掴みかかると、食いちぎろうとしているのか口を大きく開け相手の顔へと近づける。

 それを避けながらもう一頭も負けじとお尻についた尻尾を力一杯振り、相手の胴体へと当てながら掴み掛かられた腕を両腕で外しにかかった。

 取っ組み合いながら右に左によろけ、軸がぶれる二頭は、色々なものを薙ぎ倒していく。


「あっ! それは隣国からもらった石像だぞ! うあああああああ!!」


 隣国からいただいたらしい石像を筆頭に、王妃様が気に入って建てたという東屋、研究も兼ねていたという庭はじの温室。

 今最後の建造物である、温室とは反対側の、城にむかって左側に建てられていた東屋が崩れ落ちた。

 国王様の悲鳴が辺りに響き渡る。


 グルるるる


 今度は先ほど背を向けていた竜の方がこちらへと向いた。

 闇のように暗い瞳がわたくし達を見た気がした。

 気のせいかしら……。


 ついと逸らされた瞳はもう一頭を見る。

 そして口を大きく開けると、もの凄い勢いの火を吹いた。


「か、火事になる……皆のもの火消しの準備を!!」


 国王様が号令をかける。

 お父様と兵士の方々は各々火の燃え移り対策準備のため走りちった。


 火を吹かれた方の竜が、熱かったのかよろけて二、三歩下がった。

 だが踏ん張ると、口を大きく開けるのが見える。

 位置的に、先ほどと同じかそれ以上の火ならば城へと到達するかもしれない。


 城はきっともう働き手の人が、起きて大勢活動しているはず。

 壁は石造りだから持ち堪えるかもしれないが、窓から入り込んだ炎が内装に移ったらひとたまりもないだろう。


「クリス!!」

「父上、避難はどうなってますか」

「!! ……儂らも慌てて出てきたから、まだだ。頼めるか」

「影も使わせてもらう」

「もちろん、許可しよう」


 クリスは国王様と話し終わると走り出した。


「気をつけてね!」

「メルティも!」


 彼の声と共に咆哮(ほうこう)(とどろ)き、真紅の瞳の竜が火を吹いた。

 黒い瞳の竜が、それを受けて苦しそうにする。

 わたくし達から見て、両者の側面を見る形になった。


 何もできない自分がもどかしい。

 両手を強く握る。

 悔しい。


 ガァあああああああ!!!!

『………………どうしてだ!!!!』


「? 国王様、今喋っておいででしたか?」

「いや、何も」


 グォぉぉぉお!


 ギぃシアあああ!

『ここの人を巻き込むのは間違っているだろう!』


 竜の鳴く声に重なって、声が聞こえる。

 この声……グルマト殿下の声?!


「グルマト殿下!!」


 わたくしは試しに声を張り上げ名前を呼んでみた。

 真紅の瞳の竜が、ちらりとこちらを見る。

 けれど一べつしたあとまたもう一頭の方へ視線を戻して鳴いている。


 二頭の鳴き声が辺りに木霊(こだま)する。

 どうやら、竜の言葉で相手と話しているようだ。

 気を取られた隙をついて、黒い瞳の竜が掴みかかっていく。

 応戦するグルマト殿下。


 お互いがお互いの腕を掴んだり、掴み返したりしている。

 合間に頭突きを繰り出したのを躱したり、鋭い爪で抉ろうとしたりし合いながら、竜たちは決して長くはない手足とその全身を使って戦っていた。


 双方が交互に鳴く。

 何か言い合いをしているのだろう。

 けれど、わたくしにはうまく聞き取れない。


 二頭の声が深く暗く響き渡る。

 まるで絶望そのもののような音だ。


 グルマト殿下の尻尾が相手の竜の腹を叩く。

 うまく入ったのか、竜がうめき声を上げながらよろけた。


 その隙を狙いグルマト殿下がまた口を開ける。

 今度は口の端から炎がたくさん漏れ出ていた。

 先ほどよりも、かなり大きい?


 黒い瞳の竜の背中に城がある。

 今度こそ城が焼かれてしまうかもしれない。


 しかも今はクリスもあの中にいる……。

 だめ!!




「やめてくださいまし!!!!」




 わたくしは思わず叫んだ。

 途端。

 目の端にキラキラとした光。

 両手を見ると、自分の輪郭線ともいえる部分がぼんやりと光っている。

 その光はふわふわとまぁるくなって空中を移動しながら、グルマト殿下へと集まっていた。


 ぼんやりとした光が殿下を包み切る。


「なんだ……?」


 国王様が呆然としながら殿下を見ている。

 わたくしも自分を見、国王様を見、それから殿下の方を見た。

 何が起こってるのだろう。

 予想に反して、殿下が火を吹く様子はない。

 すると集まった光が弾け飛びちった。

 竜の姿が消える。

 次いでもう一頭の方も、それを見て動きを止め霞をまといながら姿が消えた。


「きゃぁ!」


 それを見て、わたくしは竜の消えた場所を目に入れないよう、両手で顔を隠した。


「あ……」


 国王様から声が漏れ出る。


 消えた後に現れたのは、全裸でたたずむ殿下。

 そして、人の姿へと戻った全裸のウーガン殿下が立っていたのだった。

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