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22 怒りと殴られる

 軽く視界が揺れる。


「手間をかけさせないでください」

「女の子にちょっと酷くないかしら?」

「では、ここで手を離しても良いですか? 彼、手に入りませんけど」

「嫌よ。そうね、邪魔してた人は人ではないのかも。私と彼が望む未来を消そうとしたんだものね」

「……そういう、ことですよ」


 デザンとフローラが話す声が、少しだけ遠い。


「後は任せましたよ」

「そっちのことは知らないわ。私は彼と家庭を築くだけだもの」


 家庭?


「それはなんだ?」


 クリスの声が聞こえる。


「ん〜、ちょっとだけぼんやりして良い気持ちになる飲み物ですわ。見張りの方、彼の口を開けて欲しいのだけど」


 肩に担がれたのか、世界が逆さまになる。

 クリスが危ないのに。

 逆さまの世界で、彼の口に不思議な色の液体が入っていく。


 そこでわたくしの意識はぷつりと途切れた。










 ずっと守られてきた。


 もちろん、守られるだけでは嫌だったから。


 自分の身を守る(すべ)も学んできて。

 だけど。


 足りないのだわ。

 たくさんのことが。


 だから助けられてしまっていて。


 もちろんそれは相手の人の仕事でもあって。


 身の丈に合わないことを、無理してしまえば、その人の仕事まで邪魔をしてしまう。


 なら。


 わたくしにできることは……?

 できることは、何?










 ゆらゆらとしている。

 世界が、揺れているの?




 ゆっくりと、瞼を開ける。

 何かを口に含まされたのか、舌のあたりで苦味がする。


 ……また、なの。


 恐怖と怒りが湧いてくる。


「……目が覚めたか。意識のないもので遊ぶのはつまらんから丁度いい」


 人の声がした。

 ゆっくりと顔を向けると、豪奢な椅子に足を組んで座った男の姿が見えた。

 歳は三十くらいだろうか青年らしいがっちりとした体に、長い黒髪、髭が少しだけ顎周りに生えている。


「ここ、は……」

「我の部屋だ。他は下がらせた。気分はどうだ」

「さい……てー、さい、あく、ですわ……」

「そうか。我は今とても機嫌が良いぞ」


 話の通じない人らしい。

 これが、さっきデザンが言っていたグランナダ、とかいう深淵の光の教祖だろうか?

 焦茶色の瞳の奥が、暗い。


 どうしてこんな人が相手から信頼を得ていられるの……?


「そこそこ手強かったが、この国はなかなかどうして我の味方になるものも多かった。祖国で虐められこちらへ来たが無駄ではなかったよ」


 微笑みさえも、怖い。

 言い終わると椅子から立ち上がり、こちらへとゆっくりやってくる。

 黒い衣服と相まって、得体の知れない生き物に感じてしまった。


 動かしにくい体はベッドに横たわっているらしい、一生懸命ジタバタとした挙句、わたくしはそこから床へと正面から落ち転げてしまった。


「……っ!」

「……ふは、ふははははは! 無様だのう。惨めだなぁ! 我は好きだぞ……みっともなく、涙と小水を垂れ流しながら生への執着を()べるさまは実に良いものだからなぁ! ……ん? 泣かぬのか、良いのだぞ命乞いでも助けて欲しいでも言ってみろ」

「なく、わけが、ありませんわ……。いの……ごぃ、も……ひつよー……ない、ですもの」


 言いながら、ベッドから離れる。

 何かが効いていて動きづらい。

 その代わり、逃げることもできないと思われたのだろう、足枷も手枷も無くなっていた。

 一生懸命手に力を入れて突っ張り、床から顔を上げた。

 その顎を、近くに来てしゃがみ込んだグランナダに捕まれ、彼へと顔を向けられてしまう。

 仄暗い愉悦をたたえた瞳がわたくしを見る。

 顔が近い。


 突然唇を奪われた。

 舌が入ってくる。




 嫌!!!!




 わたくしは全力でそれを噛んだ。


 怒りに震えた目が見えた瞬間。

 頬から聞いたことのない音がして、体がベッドへと吹き飛びその側面で背中を(したた)かうった。


「っぐ、ぁ!」


 頬が痛く熱い。

 多分拳で殴られたのだろう。


 顔変わってないかしら。

 この場にあって、不思議とそんな考えが浮かんでしまった。

 わたくしも一応女の子っぽい考えを、できたのね。

 ……クリスに嫌われたら、というよりかは……守れなかったなんて、って、そういう悲しい顔をさせてしまいそうで嫌だっていう気持ちだけれど。


「やはり女に学はいらんな。(さか)しらぶるのが実に良くない。男に唯々諾々と従っていれば良いものを、逆らうからそんな目に遭うのだ。少しは大人しくしろ。そうすれば良い思いもできるし守ろうとも思うものだぞ? ん?」

「お、んな……だとか、おと、こ、だとか……ふるい、です、わ」

「何ぃ?!」

「ひとと、して、だいじな、こと……しらない……んて、かわいそうね」


 つい反論したくて、言った途端火に油を注いだのがわかった。

 相手は明らかに、先ほどの少々いたぶるといった雰囲気ではなくなっている。


「ふ、ふふふふふふ……少し味見をして後は資金源にしてやろうと思ったが気が変わった。お前はそばに置き壊れるまで女の喜びを教えてやろう」


 怒りなのか、自分の力を過信しすぎて笑っているのか、肩を震わせながらニタリとした顔で近づいてくる。


 にげ……なく、ちゃ……

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