【72話】真実
私、氷織鈴華は笹原一真が嫌いだった。
私と違って、才能も実力もあるのに怪我が悪化するのが怖くて、サッカーをやめた。
二人でした約束を忘れ、あいつは一人で夢を追う私を見捨てた。
と、思ってた。
「カズの足の怪我、完治なんかしてないんだよ」
「え、」
花菜に半ば脅されて、無理矢理に笹原のサッカーの試合に連れて行かれる道中、信じられない言葉を聞いた。
私は思わず立ち止まる。
「どういうこと?怪我が治ってないって」
「そのままの意味だよ。カズの右膝は完治してないんだよ」
「そんな、嘘だ。だって手術は成功したって」
笹原は手術は成功したって言った。
「手術は成功したんだけど、リハビリの休憩中に病院の敷地周りを散歩してたんだよ。そしたら、車道に飛び出した子供が車に轢かれそうなのをカズが庇ったんだよ。そこまで大きな接触じゃなかったんだけど、車にぶつかった拍子にまた、右膝を怪我したらしいんだ」
それって、もしかして私のバスケの市内大会の決勝の日。
笹原から連絡がなかったのも、スマホが壊れたのもそのせいで。
「手術後まもなくだったから、完治した膝がまた悪化したらしくて長時間激しいスポーツはまた怪我再発の恐れがあるから勧められないって医者に言われたらしい」
そ、そんなの聞いてないよ。
「カズはそれでもサッカーを続けようとしたんだけど、もしそれで致命的な怪我をしたら一生満足に歩けなくなるかもしれない。それに両親に迷惑をかけたくないって。それで結局サッカーをやめることにしたんだ」
全く知らなかった事実を花菜から赤裸々に語られる。
「どうして、笹原は私に本当のことを教えてくれなかったの?」
本当のことを教えてくれれば、私だって笹原を応援したのに、
「スズのことを思いやってのことじゃないかな。怪我でスポーツができなくなったていう怖い未来をスズに知ってほしくなかったから」
笹原がどんな思いでサッカーを諦めたのか、全然知らなかった。
笹原は私のことを思っててくれたのに、
なのに、私はそんな笹原になんとことを、
自分の愚かさと不甲斐なさに怒りがこみあげてくる。
花菜の話を聞い、両拳に力が入る。
そして、目から雫が頬を伝って地面に落ちる。
それは止まることがなく、私はそのまま膝から崩れ落ちる。
「私、今まで笹原にひどいことを。笹原の気持ちも考えないで、一方的に私の価値観を押してつけて」
あー、なんて情けないんだ。
「これから、笹原になんて顔すればいいの?」
もう笹原に合わせる顔なんてない。
そんな泣きじゃくって弱音を吐く私にそっと暖かい手が背中に触れる。
「今、カズはスズのために全力で戦っている。スズはそれを見届ける義務があるんじゃない?」
そうだ、笹原は今も私のために怪我を負いながら、戦ってくれている。
笹原は私に試合を見に来いと言ってくれた。
なら、私は笹原の試合を見届けないと、
それは笹原にとって最後のサッカーになるかもしれない。
私は、花菜に支えられながら立ち上がり、一緒に笹原が戦っている戦場に向けて駆ける。
「それにカズはちょろいから女の子の声援で力出るかもよ」
雰囲気を和ますためにそんなジョークをぶっこんで来る。
あいつは女子からの応援なんて気にしないだろう。
急いで会場に着くと、うちのチームは相手に攻撃されていてなんとかディフェンスが持ちこたえている場面だった。
花菜が観客席にいる工藤君たちを見つけて、合流する。
「いま、どんな感じなの?」
「おー、花菜に氷織も間に合ったんだな。さっきうちのチームがカウンター仕掛けたんだけど止められて今は結構ピンチかも。スコアはまだ0対0だけど」
私はボールが混線している自陣を探したが、笹原の姿はない。
ふと相手陣地を見ると、座り込んでいる笹原をみつけた。
「笹原はどうしたの?!」
「あー、圭人のやつさっき相手との接触で足を痛めたらしい」
「そんな、大丈夫なの?」
「一応、大丈夫らしいが、思い通りにプレーできるかわからない」
「そんな、」
笹原を心配する中、チームメイトは必死にゴールを死守していた。
みんなが笹原のことを信じて、
そしてそんなみんなのことを笹原も信じて、ゴール前で待つ。
何とかボールを奪い取って、笹原にパスが通る。
それを華麗にワントラップで相手のディフェンダーを躱した笹原。
その姿はまるで、中学の時の「飛翔」と呼ばれていた、私の憧れだった彼だった。
しかし、シュートモーションに入るがバランスを崩してしまう。
やっぱり膝の怪我か、ここまでなのか、
「カズ!決めろ!」
横から花菜の大きな声が会場に響いた。
花菜は私に目配せして合図を送る。
そうだよ、私だって笹原に勝って欲しい。
だから、出せる最大限の声で、
「頑張れ!笹原!」




