【57話】鈴華と一真の過去 前編
お久しぶりです。
春休みになって、ちょくちょく再開していくのでよろしく!
私、氷織鈴華は引っ込み思案な性格だった。
友達もほとんどいなく、学校が終わったらすぐに家に帰ってゲームや漫画を読むような小学生だった。
それを見かねた母親が運動神経が良いのだから、何かスポーツを始めればっという提案を受けて、小学5年生になってから地元のミニバスケチームに入った。
最初の方は上手くいかなかった方が多かったけど、バスケを通して友達もできて、シュートを決めると楽しいし、たくさんの仲間と一緒に何かするのが楽しくて仕方なかった。
だから中学になってもバスケ部に入ることを決めた。
だけど、私の入った中学は市内でもなかなか強い部類に入る学校だったため、試合に出る機会はなく、いつも補欠だった。
試合に出れなくて、毎日のきつい練習に、先輩との上下関係。
小学生の時の楽しいミニバスと違って苦しさが続くバスケだった。
3か月経ち、何人かの同級生はやめて行ったし、私も注意ばっかされたり、思うようにいかない部活をやめようと思ったこともある。
しかし、その時私は偶然彼のプレーを見た。
部活の練習の休憩中、夏の蒸した体育館から逃げるように外に出ると、グラウンドではサッカーの試合が行われていた。
1チームは、うちの中学のサッカー部だ。
うちの中学のサッカー部も強豪で毎年、県大会に出ているらしい。
素人の私が見ても、レベルの高い試合だった。
その中でも、ベンチにいる選手や監督、試合を見ていたギャラリーの注目を浴びていたのが、彼、笹原一真だった。
笹原は学校内でもサッカーが上手いことで有名で、世代別の日本代表にも選ばれたことがるようだ。
一年ながらレギュラーフォワードの座を勝ち取り、試合に出ている。
笹原は味方からパスを受けると、まるで華麗なダンスを踊るような軽やかなドリブルで相手を躱して、キーパーも鮮やかに躱して、そのままシュートを決める。
グラウンドから一気に歓声が上がる。
その華麗なプレーに私の目は奪われた。
それだけじゃない。
彼は何とも笑顔で楽しそうにサッカーをしている。
試合にも出れず、いつも苦しみながらバスケをしている私にとって、そんな彼が眩しく見えた。
その後も彼は、その空に羽ばたく鳥のように自由なプレイで相手を翻弄し、会場を魅了し、そのままハットトリックを決めてうちの学校のチームは勝った。
休憩が終わって練習に戻った私は、その試合を見届けた後はどうしてかいつもよりも楽しくバスケの練習をすることができた。
私は練習が終わってすぐにまだ一人グラウンドに残っていた彼の姿を見つけた。
一人でボールを蹴って楽しそうに練習している。
私はすぐにグラウンドにいる彼に元に寄って衝動的に話しかけた。
「あの、笹原君!」
突然の私の訪問に、驚いた様子でタッチミスしたボールがこっちに転がってきた。
「すまん、えっと君は?」
「私、笹原君と同じ一年の氷織鈴華って言います。女子バスケ部に所属してます!」
「ご丁寧にどうも、俺は笹原一真。見ての通りサッカー部だよ。で、俺に何か用か?」
「どうして、そんなに楽しそうにプレイできるんですか?」
彼は、サッカー部で一年生ながらレギュラーに選ばれて三年生の期待を背負っている。世代別の日本代表候補選手に選出されていろんな人からの重圧を抱えているはず。
それなのに、どうして苦しくないのか?
どうしてそんなに楽しそうにプレーして、笑顔でいられるのだろうか?
不思議で仕方なかった。
私は、こんな普通の部活の練習で音を上げて、大好きだったバスケも今じゃただ苦しく感じるだけ。
「そんなのサッカーするのが楽しいからに決まってるだろ?」
「え?」
そんな当たり前の答えが返ってきた。
「相手をドリブルで抜く爽快感、テクニックで相手を翻弄して、ゴールを決める快感。そして何より勝負で勝つことが好きなんだ。ただ、それだけ」
彼は私からボールを奪い取り、華麗にリフティングを披露する。
時には足をボールの周りでまわしたり、首の上にボールを乗せたりして技を見せつける。
「そのためなら、どんなきつい練習でも俺は楽しい!氷織はどうなんだ?」
彼はそのボールを私の胸元にパスしてきた。
「私は、」
私は何のためにバスケをしているのだろうか、
先輩たちに怒られないように、チームの足を引っ張られないように、
違う!
私がバスケを始めたのは仲間と一緒にプレーする結束感、相手をドリブルで抜き、シュートを決めるあの快感。
そしてなにより、
「私もバスケが好きだからバスケをやっているんだ!」
自分が過去に抱いていた、感情を大きく叫んだ。
私はそのまま受け取ったボールでドリブルをして、切込み、校庭にあるバスケットゴールにシュートを放つ。
私の熱意のこもったボールはリングに掠ることなく、ネットを揺らした。
「ナイシュー!」
「私決めた!私はバスケを精一杯楽しむ!誰よりも」
私は彼にボールをパスして返した。
それを綺麗に足でトラップして、リフティングを開始する。
「それがいい!」
その時に見せた、彼の笑顔は爽やかでかっこよくて、
私はこのとき彼に救われ、
好きになったんだろう。
「じゃあ、私が試合に出られるように練習付き合ってくれる?」
「いいけど、俺そんなバスケうまくないぜ?」
「別にいいよ」
「じゃあ、俺のサッカーの練習にも付き合ってくれよな」
「もちろん!」
そっかから、私と一真の二人だけの練習が始まった。




