【56話】選択
「それで呼び出して何の用?」
体育館で俺はユニフォーム姿の鈴華を呼び出した。
「お前に話がある」
「前にも言ったけど、あんたと話すことなんてない。もういいでしょ、私は忙しいの」
「お前の後輩から聞いたぞ」
帰ろうとする鈴華の足が止まった。
「お前が部活のことで揉めてること」
バスケ部の後輩の話によると、予選リーグの初戦の相手が県内有数の強豪高校、白崎高校に決まったらしい。
女子バスケの大会は俺たちのトーナメントとと違い、リーグ戦らしく4チームの中2チームが決勝トーナメントに上がれるらしい。
そういうこともあって、一回戦目は手を抜こうとまではいかないが、怪我をしないようセーブしながら戦うようにしようと選手間で話し合っていたそうだ。
残りの2チームは確かにうちの高校なら余裕で勝てるチームらしい。
だが、そのやり方に鈴華が反発した。
「他の部員は戦いもせず、勝つことを諦めてんだよ。どうせ、決勝に進めば当たる相手なのに」
「でも、相手に情報を与えないていう戦略ならいいんじゃないのか?」
「負ける前提でいる相手に情報を隠したところで勝てるわけないよ」
確かに鈴華の言う通り。
はなから勝てないと思ってる相手にどうこうしたって勝てるはずがない。
「だから、私言ってやったんだよ!次の試合は私1人でやるって!」
エースとして、次期部長としての責任。
どんな試合にでも勝ってみせるというストイックさが他の部員との亀裂を産んでしまった。
「それに、白崎にはあいつがいるんだよ」
あいつって、確か
「葉月翼のことか?」
「そうだよ」
葉月翼、白崎高校2年生女子バスケ部のエース。
鈴華より一つ上の関東選抜に選ばれていて、全日本世代別の代表にも呼ばれている。
鈴華にとっては高い目標、ライバル的存在。
「そんな相手に情けない試合できるかっての!」
そう、だから鈴華は負けられない。
球技大会のプレイやさっきの練習試合はそのための予行練習。
鈴華は任せるところは任せるが、基本的には無理をしてでも1人で勝つ気でいる。
例え、どんな強い相手でも、負けても次があるとしても、
だけど、
「前にも言ったが、バスケはチームスポーツ。1人じゃあ勝てない」
1対5で勝てるわけがない。
相手がどんなに相手が下手くそでも人数差を覆すことはできない。
「そんなことない!勝つ気もない選手に任せられるない!私1人で勝つ!」
「お前もほんとはわかっているだろ」
持っていたバスケットボールを落とす。
そして、そのまま膝から崩れ落ちる。
「じゃあ、どうすればいいの?私がどれだけ頑張ろうとしても誰もついてこない。
でも1人じゃ勝てない」
悔しそうに嘆く。
彼女も何度も考え抜いての結論なんだろう。
この信念を曲げてしまえば、本来の自分を見失ってしまう。
それは氷織鈴華という人間を諦めるという行為。
「じゃあ、お前がみんなを引っ張て行けばいい」
「え?」
「お前がエースとしてチームのみんなを引っ張て行って、勝てばいい」
「そんなの無理だよ!私にそんなことできない。口下手だし、リーダーシップとかもないし」
確かに、鈴華はバスケの実力は高いけどキャプテンやリーダーなどのみんなをまとめる能力を有してはいない。
だとしても、
「何も人を動かすのは言葉だけじゃない。お前のプレイで引っ張ていけばいい」
鈴華のプレイには周りを熱くさせる力強さかある。
「何よ、逃げたあんたが偉そうに。前にも言ったけど、戦わず逃げたやつが私に何か言う資格はない」
その通り。
鈴華は今ももがきながら苦しみ、戦っている人間。
俺は夢を諦めて、戦わず逃げた人間。
とやかく言う資格はない。
だけど、それは、
「俺も戦うよ」
「え?」
驚いた顔で俺をみる。
「俺も決めたよ。もう遅いかもしれないけど」
鈴華のために、自分の過去と決別するために、前を向いて歩み出すために
「来週の土曜日の試合見に来いよ」
俺は鈴華を1人残して体育館を後にする。
俺は戦う。




