【54話】熱意のプレー
延長後半残り5分。
点差は1対2で負けている。
相手チームは三宅を含めて現役サッカー部が4人もいるのに対して、こっちの経験者は引退した高橋先輩一人。
俺が来てから試合を見ていたが、ずっと押されている展開。
何とか必死に守って、二点で抑えている。
得点も相手がミスをして、たまたま入ったラッキーシュートだったらしい。
時間もなく、1点ビハインド。
ちんたらしている余裕はないな。
「高橋先輩、俺、ポジションフォワードでいいすか?」
「ああ、」
「先輩たちはボール奪ったら前の俺にパスしてください。どんなパスでもいいので」
「わかった」
「任せる」
「頼むぞ」
「はい」
バスケでいい感じに体が温まったから、ベストコンディション。
速攻で決めてやる。
俺が助っ人として三年生のチームとしてコートに出る。
「誰だあいつ?」
「三年生じゃないよね」
「うん、確かに二年生の」
「えー、三年生の一人が怪我で退場して人数が足りなくなったため、助っ人として二年生の笹原君に出てもらいます」
咲空先輩が本部にあるマイクを使って校庭にいる生徒に伝える。
「なお、笹原君は現役のサッカー部でとても上手いらしいので、皆さん期待してくださいねー」
「おおーそうなのか」
「笹原って言えば確か」
「体育祭でも活躍してた子だ」
咲空先輩、余計なことまで言って、
ハードルが上がってしまったではないか。
まぁ、決めるとしますか
「おう、笹原。決着をつけるぞ」
「お前が俺に勝てるとでも。」
「ああ、俺たちで勝って、お前には大会に出てもらうからな」
「ふん、やってみろ」
ピピー!
試合が再開する。
ボールは相手に渡って、攻撃が始まる。
三年生は点数を取られないよう全員べた引きでゴールを守る。
俺は一人前線に残ってボールが来るのを待つ。
「笹原、お前には決めさせないぜ」
「そして大会に出てもらう」
俺にはサッカー部の二人が密着マークしている。
サッカー部の生徒には俺のサッカーの能力値が知られているから、警戒されるのも当然か。
「こっちも勉強のために負けられないんだよ」
三宅がシュートを放った。
そのシュートはディフェンスに当たり、ボールがこぼれる。
そのボールを高橋先輩が拾い、
「笹原!」
シュート性の強いパスを俺に出す。
俺はそのままターンをしようと体を相手のゴールに向ける。
それに反応してマークの一人が俺のターンの進路妨害をしてくるが、俺はそれをあざ笑うように踵のヒールで進行方向との逆方向にトラップして、一人目を躱す。
「な!」
俺からボールが離れたのを見て、二人目がボールを奪いに来るが、俺は振り向きざまアウトサイドで相手の股を抜いて、二人目も抜く。
「マジか」
そしてゴールキーパーとキックフェイントでこれも躱し、無人のゴールにシュートを決める。
俺の鮮やかなゴールにコートは沈黙し、
「「「おおー!」」」
一気に歓声が上がる。
「上手すぎる!」
「かっこいい!」
「あいつ何者だよー!」
俺はその歓声に耳を貸すことはなく、そのままボールを持ってハーフラインに置き、
「さ、早く始めるよ」
時間は残り2分。
心もとない時間。早く試合を開始しなければ、
「クソ、さすがだな」
「マークどうする?二人がかりでも無理だったけど」
相手は俺のマークについて話し合いをする。
正直二人なら何とかできるが、三人マークされたらきつい。
「いや、マークは俺が付く」
三宅が申し出た。
「二人は攻撃に参加して、残りの時間で決めてくれ。笹原は俺がマンマークして止める」
「分かった」
「任せるよ」
試合が再開し、またもや押し込まれる。
俺には三宅一人がマークに着く。
「いいのか、三宅だけで」
「ああ、よくよく考えれば、この試合は俺の本気をお前に見せるためのものだ。俺が止めなきゃ意味がない」
なんとも熱い男、不合理な考え方だ。
このチームで脅威なのは俺だけなのだから、俺に人数をかければ俺たちに勝つ手立てはないのに、
そのまま、攻め込まれ、残り一分。
このままでは俺にボールが来ないまま試合が終わってしまう。
「仕方ない」
俺は一人前線に残っていたが、ボールを取りに下がる。
それに驚いた相手ーチームの一人がミスをしたところを俺が奪う。
「笹原からボールを奪え!」
「こいつにボールを持たせてちゃダメだ!」
俺からボールを取りに来る相手二人。
俺はそれを冷静にボディフェイントと足技で抜き去る。
正直初心者のディフェンスなんて相手にならない。
「「「おー!」」」
大規模の歓声が上がる。
昔もこんな感じだったな。
俺のプレーを見るたびに歓声が上がる。
その後も一人、二人と抜き去り、残りは三宅とキーパーのみ。
「ここで止める」
「じゃあ、止めてみろ」
俺は両足でボールを跨いでシザースを繰り出し、相手を揺さぶる。
そして、アウトサイドで右側に抜こうとして、一瞬でエラシコを繰り出しインサイドで左側を抜く。
「クソ!」
そしてそのまま左足でシュート、
「させるか!」
抜かれながらもスライディングをして、シュートブロックをしてくる。
だけど、それもフェイク。
俺は途中でシュートをキャンセルして、ボールを持ち直して、完全フリーでシュートを放つ。
「まだだ!」
スライディングで倒れたままの鈴華は倒れたままボールに食いつき、俺のシュートを顔面でブロックする。
「な!」
ボールは大きくゴールを外れ、
ピッピー!
試合は終了した。
「おい、大丈夫か!」
俺はシュートを顔面で止めて見せた倒れている三宅に手を伸ばす。
「ああ、大丈夫だ」
「鼻血出てるじゃん」
三宅の鼻から血が垂れる。
「鼻血くらい平気だよ」
手で血をぬぐい、元気そうに振舞う。
「もう、たかが球技大会なんだからあんまり無理すんなよ」
「あはは。でもこれで俺の本気は伝わっただろ!さ、PK戦で決着をつけるぞ」
延長でも試合が決まらなかったら、PK戦で勝敗を決めることになっていたはず。
しかし、
「えーと、サッカーは時間が押してまして、今回はPK戦無しの引き分けとします」
本部にいた先生からのアナウンスがあった。
「「「えー-!」」」
観衆からはブーイングが上がったが、もう4時過ぎ。
当初の予定では3時には試合が全部終了する予定だったのにもう1時間も過ぎている。
こうなっても仕方ない。
「け、じゃあ優勝というわけにはいかなかったか。仕方ない、助っ人の件はなしでいいよ。お前にも点数を決められたからな」
そう言って、優勝できなかったからときっぱり諦める三宅。
潔い男だな。
「で、どうするの?笹原君」
「うわ!」
背後からいきなり現れた咲空先輩に声をかけられて驚いた。
「驚かせてごめん。で、君はいいの?大会でなくて」
「それは、」
「私は君がサッカーしている姿がとても楽しそうに見えたよ。でも、ちょっと何か引きずってるようにも見えたよ」
痛いところを突かれる。
「それに、」
先輩が振り返ると、
「笹原やっぱりうめーな」
「高橋の後輩強すぎ!めっちゃ助かった」
「むしろ怪我してくれた海斗には感謝だな」
一緒にプレーした三年生がおれに感謝の言葉を投げかけてくれる。
「君は自分が力になれないって言ってたけど、そんなことはやってみないと分からないと思うな」
「俺は、」
こうして球技大会は幕を閉じた。




