【34話】黒瀬沙羅の事情
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黒瀬は、倒れた後そのまま早退となった。
そして学校では、あの黒瀬が一位から陥落したことが大きく話題になっていた。
今まで不動の一位だった黒瀬が二位に落ち、学校では影の薄い、冴えない俺が一位を獲ったのだ。
月曜日には、俺のもとに知らない生徒が様子を見に来たりして、少しうんざりした。
もちろん、黒瀬を負かして一位を獲ったのは嬉しいが、なんともすっきりしない心象だった。
金曜日には違う話題が盛り上がっていた。
月曜日に早退して以降、黒瀬は学校に一度も来ていないのだ。
今までは誰よりも学校に早く登校して、皆勤賞だった黒瀬がどうしてか学校に来なくなったのだ。
先生も特に事情を聴いていなく、病気だとか、はたまたテストで一位を獲れなかったショックだとかいろいろ噂されている。
いつもの俺だったら、そんな噂なんか気にせずに自分のために勉強に励んでいたが、今回は違う。
テスト結果を確認したときの黒瀬の絶望の顔、それに体育祭の後に目撃した黒瀬の体に残る痛々しい傷跡。
どうしても気になって仕方がなかった、
なにか黒瀬には、俺たち学校のみんなが知らないとんでもないことを抱えているのではないか?
俺は黒瀬のことは何も知らない。
ただの同級生だ。
それでも、俺にとってはあいつは倒すべき目標であり、ライバルだ。
放っておくにはいかない。
「というわけなんだけど、何か知ってる?花菜」
とりあえず、黒瀬とも仲のいい幼馴染の花菜に黒瀬のことで何か知っているか聞いてみる。
「へぇー、そんなことがあったんだ。確かに沙羅ちゃんずっと休んでて心配だよね。そういえば、沙羅ちゃん更衣室で着替えないでいつも一人ですぐ着替えてたし、水泳の授業も毎回休んでたんだよね」
たぶん、それは体の傷や痣を見られたくなかったからだろう。
「他にはなにか知らないか」
「うーん、あ、そうだ。沙羅ちゃんと同じ中学校の子がいるからその子に聞いてみるね」
やっぱり持つべきものは、交友関係の広い幼馴染だな。
ということで、黒瀬と同じ中学校の別クラスの子に聞きに行くことになった。
「あ!いた。凛音ちゃん、舞ちゃん。ちょっと話いい?」
その二人はいかにも陽キャって感じで、俺にとっては苦手な人種だな。
「うん、いいよー。どうしたの花菜ちゃん」
「あれ、噂の彼氏さんと一緒」
「そうだよー、学年一位取った私の彼氏だよ」
友達に茶化されて、花菜はふさげて俺の腕に抱きついてくる。
「そんな冗談は良いから」
「え、花菜ちゃん、まだ付き合ってないの?」
「そうなんだよ、カズが素直じゃないんだよねー」
この手の話題はもう聞き飽きた。
花菜も思合わせぶりな態度を見せる子からこうなるんだよ。否定もしないし、
「もう、この話は終わり。ほら早く本題に入れ」
「はいはーい。沙羅ちゃんのことについて聞きたいんだけど」
「あー」
「最近、学校休んでるらしいね。今まで皆勤賞だったのに」
「中学時代の黒瀬ってどんな感じだった」
「「うーん」」
考え込む二人。
「入学して当初の時は、今と違ってよく私たちと遊んだり、くだらないこともいっぱいしてたね」
「そうそう、カラオケで歌いまくったりね」
今の黒瀬じゃ考えられないな。
ほとんど遊ばずに勉強に時間を費やしてるみたいだし。空いてる時間は風紀委員の活動や他の人の手伝いなどしている。
「だけど、中学二年生になったぐらいから変わったよね」
「そうそう、今みたいに勉強漬けの毎日で遊んだりすることも減ったし」
「なんか、その時期に黒瀬の周りで何かなかったか?」
今のところ黒瀬の身体の傷跡や勉強への執着には繋がらないな。
「そういえば、黒瀬さんのお父さんがその頃、市議会議員に当選したらしいよ」
「黒瀬雄一って名前で今でもこの地域で有名な議員だよ」
黒瀬雄一。
俺たちの住んでいる市の有名な市議会議員だ。
厳格な性格で不正を許さず、いろいろな革新的な政策によって市の発展に貢献してきた人物だ。
議員になったのは30代後半と少し遅めだが、そのリーダーシップとカリスマ性から多くの支持を集めていて、次期県知事になるともいわれている。
さして、市の政策になんて興味のない俺だが、黒瀬雄一議員の噂は耳にする。
「へぇー、あの議員って黒瀬さんのお父さんだったんだね。知らなかったなぁ」
それは、俺も同意だ。
確かに黒瀬の不正や悪事を許さない正義感も議員に似たようだな
「でもなんで、それで黒瀬が遊ばず勉強に集中するようになったんだ。父親のように議員になるためだとか?」
でも、それなら黒瀬が父親のことをもっと広言してもいいはずだ。
誇りに思うならそれが当然のはずだ。
しかし、黒瀬から一度も父親のことを聞いたことがない。
照れくさがって言わない可能性もあるが、黒瀬に限ってはないだろう。
「うーん。そういえば、それと同じ頃にお母さんの体調が悪くなったって聞いたよ」
「そうそう、一時期は入院したとも聞いたよ」
母親が入院したのか。
だけど、それも黒瀬が勉強に没頭する理由にはならない気がする。
「私たちが知ってるのかこれくらいかな」
「ごめんね、あんまり力になれなくて」
「いや、そんなことないよ」
「そうだよ、いろいろ教えてくれてありがとな」
「うん、沙羅ちゃんによろしく伝えといてね」
「うん!」
その後も俺は花菜と他のクラスを回って、黒瀬のことを聞きまわった。
だが、大した収穫はなかった。
放課後になり、
「そろそろ帰るか」
「そうだね、私はこれから友達と遊びに行くから。また明日ね」
「おう、また明日」
図書室で勉強しようと考えたけど、今日はこれから雨の予報だしさっさと帰るか。
ちなみに部活はサボり、
あ、でも市民図書館に借りていた本を返さないといけないから、図書館に寄ってから帰ろう。
俺は、勉強の息抜きとして体を動かすこともあるが、読書することも多い。
特に同年代の青春が書かれた、小説をよく好んで読むことが多い。その中でも主人公が不思議な体験うをしながら成長するSF物語を一番好む。
自分が将来のための勉強を引き換えに犠牲にした青春を間接的に感じる有効的な手段だ。
読書を楽しみながらも、現代文の成績もあがる一石二鳥だ。
俺は図書館で返却期限ぎりぎりの本を返却し、図書館を後にする。
ほんとは今日も図書館で静かに勉強したり、本を読んだりしたかったが、もう軽く雨が降り出していたのですぐに帰ることにした。
傘をさして、雨に濡れないように家へと向かう。
季節は心地よい、春の季節を通り過ぎて、じめじめとうっとうしい雨が降る梅雨となった。
雨の日は多くなるし、湿気が鬱陶しく気持ちも少し鬱になってしまう、なんともいい季節とは言えない。
時間を戻して、心地よい春にするか、時間を早めて、活気の夏にするか。
そんなことは実際無理だけど、この梅雨という季節はまるで人生の倦怠期みたいなものだなと思う。
初めは春のように上手くいっても、いずれは梅雨のように人生が上手くいかない時もある。
その梅雨がいつまで続くかわからない。
その悩みや苦しみがいつまで続くかわからない。
俺は、雨に濡れないように、この梅雨という季節に吞まれないように傘をさして家へと向かう。
帰り道に通る踏切に着くと、ある見覚えのあるシルエットが見えた。
「黒瀬、」
制服を着て、闇のように黒い髪の黒瀬。
しかし、いつもの黒瀬と違って姿勢は丸まって、顔を俯き、この前見た絶望の顔をしている。
絶望というよりはもう何もかも諦めた表情だ。
傘もささずに雨に打たれて、全身ずぶぬれになりながら警報音を鳴らしている遮断機の前に呆然と立っている。
電車のやかましい音が雨の鬱陶しい音を上書きして近づいてくる。
それまで呆然と立っていた黒瀬がゆっくりと遮断機に近づいていく。
俺は、すぐさま持っていた傘を投げ捨てて黒瀬の腕を強引に引っ張った。
「黒瀬」
驚いた表情を見せる彼女。
電車は俺たちの前を通り過ぎ、また、鬱陶しい雨の音が耳を鳴らす。
黒瀬は倒れこみながら、俺の腕を弱い力で強く握りしめ、体重を預けてきた。
いつも正義感に満ち溢れていて凛々しさあふれる彼女はそこにはいなかった。
その彼女はただ一言
「笹原君、私を助けて」
人は悩みや苦悩を抱えて、人生に絶望し生きることを諦めてしまうことがある。
生きるのに疲れて、梅雨を過ごすのを諦めた、そんな人が多くいる。
ただ彼らは知らない。
梅雨が明けると、ちょっとうざったらしいけど活気のある楽しい夏の季節が来ることを




