【19話】作戦最終日(下)
大変お待たせいたしました。
皆さんに見てもらえるように土曜日に投稿させていただきました。
これで、吉田編は完結となります。
この作品はまだまだ続きます。
ぜひ、ブックマーク、感想、評価待ってまーす
金曜日になった。作戦最終日。
俺、笹原一真はこれまでの作戦を振り返っていた。
俺は、いじめられていた吉田を目撃し、助けを求められたため力を貸すことにした。
一週間で作戦を実行し、吉田をいじめられないようにする。
土日を使って、圭人や咲空先輩たちに協力を仰ぎ、吉田を呼び出して会話に慣らせる練習をした。
月曜日、初日は積極的にクラスメイトと拙いながらも会話をして、俺や圭人の協力もありながら、休み時間も昼休みもコミュニケーションを取り、クラスメイトと繋がりを作ってもらった。
火曜日、前日と引き続き、クラスメイト積極的に話して、コミュニケーションを取り、異性とも話してもらって、阿部という共通の話題を持つ友達もできた。俺は俺で、いじめっこの情報を鈴華を通して調査した。
水曜日、美術の時間を通して、吉田のアニメ好き、イラストが趣味、特技というのを知ってもらい、クラス内でキャラを確立することができた。
木曜日、俺は咲空先輩と黒瀬に協力を仰ぎ、いじめ防止教室を開き、学校内でいじめという行為が恐ろしいものということを再周知させ、いじめを容認する空気を換えた。
この四日間で、俺が吉田に示したいじめられキャラを卒業する三つの条件、クラス内でのコミュニティの作成、キャラの周知、いじめが許容されている空気を換えることを達成した。
そして、今日、作戦最終日を迎えた。
吉田は、普通にクラスメイトと話して、普通にペアワーク、グループワークに参加して、普通に異性と話して、普通に共通の趣味を持つ友達と昼食を取っている。
今日までの一週間、吉田はいじめられることはなかった。三人組は、休み時間も放課後も吉田は誰かしらと一緒にいたため、いじめることができなかった。
また、吉田は今までのクラス内での除外され、認知されていなかった人間ではなく、クラスメイトとコミュニケーションを作り、クラス内でキャラを確立した。それに加え、学校全体でいじめに対する危機感が増幅している。
この中で、吉田をいじめるのは不可能に近い。
彼らは、あくまで自分の優位性を示すために劣等生である吉田をいじめているのだ。
もし、この状況で吉田をいじめれば、先生に報告され、クラスメイトに後ろ指を指されるだろう。
これで、依頼は達成した。吉田は三人組にいじめられることもなく、いじめられキャラも卒業した。
とは、いかない
いじめはそんな簡単になくなるものではない。いじめはもっと残酷で恐ろしいものだ。
いじめている人間は、いじめている自覚はない、ただの遊び、ストレス発散程度にしか考えていない。
木曜のいじめ防止教室を体験しても、いじめている人間には響かない、理解しない。
案の定、今、吉田は放課後に学校裏の公園に呼び出され、大切なものを燃やされ、暴行を受けている。
そんな非道な仕打ちを受けても、吉田は足掻き、もがき、必死に抵抗している。
自分が自分であるために。弱者にならないために。
そんな吉田に俺は歩み寄り、ボロボロにされながら倒れている吉田の頭を抱える。
「よく、頑張ったな吉田。これで、お前はもういじめられることはない。」
「え、どういうこと?」
殴られて切れた口で質問する吉田。
「お前は、大事なスケッチブックを燃やされ、馬鹿にされ、殴られて、それでも自分のために抵抗した。いいか、吉田。いじめられない人間とは、運動ができることでも、友達が多いことでも、カーストで上位にいることでもない。自分は自分であるという固い信念を持っている人間だ」
俺は吉田の胸に拳を当て、そう言う。
友達が多いとか、人気者とかそんなものは外的要因でしかない。取り繕った簡単に壊れるもろい装備だ。
結局は意志の強さなんだ。これだけは譲ることができない。これが自分だ。そんな固い信念を持つ人間はいじめられることはない。
そんな人間はどんなに運動神経が無くても、勉強ができなくても、オタクでも、陰キャでも弱者ではないのだ。
吉田は、この一週間で身に着けたスキル、コミュニケーション、クラスメイトとの人脈でつけた自信を三人組にいとも簡単に打ち砕かれた。
この一週間は無駄だったのか?やっぱり、自分は一生いじめられる人間なのか?と絶望したことだろう。
そのうえ、自分の大切なスケッチブックを燃やされ、殴られ、蹴られと暴力を受けた。
それでも、吉田はこの理不尽に立ち向かい、自分の固い信念を持つことができた。
これで、吉田はもういじめに遭うことはない。
なぜなら、彼はもう強者なのだから。
「さて、ここからは俺の出番だ。ゆっくり休んどきな」
「わかった、ありがとう」
俺は、吉田を近くのベンチに座らせ、呆然と立っている三人組に向かう。
「なんだよ!お前!こっちはあいつに殴られたから、殴り返しただけだ。そうだろ」
「そうだ、そうだ」
「あいつが悪いんだ」
清原の言い訳に同調する井野と大原。
虫唾が走る。こいつらみたいな人間が野放しになっていることが。
「そんな言い訳信じるわけないだろ、俺は全部見てたしな」
「証拠はあるのかよ、証拠は」
そんな刑事ドラマの犯人お決まりのようなセリフをいう清原。
「それに誰かに話したとしても、お前や吉田みたいな陰キャより俺らみたいな陽キャの話を信じるに決まってるだろ」
「証拠はしっかりあるぜ、なぁ、圭人!花菜!」
「おう!」
「もちろん!」
俺の呼びかけに答えて、公園の入り口にある昨日裏から現れる圭人と花菜。花菜の手にはスマホが構えられていて、それではしっかりと証拠の動画を撮っている。
「さぁ、これで証拠は揃ってる。それに、お前らみたいなダサい陽キャより、圭人と花菜のことを信じるだろうな」
「クソッ!」
地面を荒々しく蹴って、イラつく清原。どうするんだよと慌てふためく井野と大原。
俺は、そんな三人組に冷たく言い放つ。
「お前らがした行為は、窃盗罪、器物破損罪、加えて暴行罪だな。これで三人仲良く少年院行きだな」
三人組の表情が曇る。まぁ、高校生で少年院に行くと聞けば、絶望することだろう、
だから、俺は彼らに提案する。
「まあ、俺はそこまで鬼じゃない。そこで選択肢をやろう、おい圭人!」
「オッケー」
圭人はバックから袋を取り出し、それを俺に投げてくる。俺はそれをキャッチして、袋を開けてブツを取り出す。
そのブツに三人組は顔を見合わせながら驚く、
俺が取り出したのは、この三人組のバスケットシューズだ。
「このお前らのバスケットシューズをここで燃やして、お前らがバスケ部をやめるって言うなら、報告しないでやるよ」
俺は、そんな悪魔の提案をする。
この三人組の情報を集めているとき、色んなことを知った。こいつらが中学時代バスケで有名だったこと、選抜に選ばれるほど上手かったこと、そして中学二年生のころ、当時三年生だった先輩が暴力沙汰を起こして、その後の大会に出場できなかったこと。
だから、彼らはバスケを適当にやるようになった。努力しても他人のせいで報われることがないと知ったから。
そんな彼らに俺は選択を迫る。
「どうした?バスケなんて適当にやってるお前らなら、バスケットシューズを燃やして、バスケをやめることも簡単だろ」
三人は苦悶の表情を浮かべる。バスケをやっている人にとってバスケットシューズは努力した証、大切なものなのだ。
俺は火曜日に鈴華と話したことを思い出す。
「なぁ、バスケやってる人にとって一番大切なものってなんだ?」
「うん?それはバッシュだろうね」
「バッシュ?バスケットシューズのことか?」
「そうそう」
鈴華はドリブルをしながら、俺にバスケットシューズを見せながら説明する。
「もちろん、サイズが合わなくなったり、ボロボロになったら買い替えるけど、やっぱこれがないとバスケしてる感じしないんだよね。初めは慣れなかったけど、馴染むようになったバッシュ。ブレーキするときになるスキール音。それに、ボロボロになったバッシュを見ると、私、こんなに練習してきたんだなあって気持ちになれるからね」
その気持ちはよくわかる。俺もサッカーでスパイクが潰れるまで履いてたし、なんかボロボロになってくるスパイクは努力の結晶みたいに感じられるからな。
「ということで、一番大切なものはバッシュかな」
「オッケー、参考になったわ」
俺との話を終え、再びバスケの練習に戻る鈴華。
今度は鋭いドライブと見せかけて、バックステップからジャンプシュートを華麗に決める鈴華。
ほんとによく練習してるな
「ねぇ、笹原、私あいつらのこと嫌いって言ってたけど、中学の時はちゃんと練習してて上手くてすごかったんだよ」
俺は、その時に三人組の中学時代のことをある程度聞いた。
「あいつら、試合の時だけ来ることが多いけど、後輩とかにもしっかり教えてるところもあるし、バスケに真摯に向き合ってることもあるんだ」
そんな風に答える鈴華。三人組は過去にあんな事件が無ければ鈴華と同じようにバスケの道に進んでいたかもしれない。
「だから、なんというか、ほどほどにしてきなよ」
そんなあんな奴らでも放っておけないというツンデレ発言を俺はしっかりと受け止めた。鈴華には詳細は話してないが俺が何をするかわかっているようだ。
「わかったよ、相棒。じゃあな」
俺は鈴華と別れて、体育館を後にした。
「もう相棒じゃないでしょ」
そんな小さい声に俺は気づきながらも体育館を後にした。
「で、どうする?早く決めろよ」
悩む三人組、もし、いじめのことを報告されれば三人組の社会的地位は地に落ちるだろう。将来一生背負ってく業を持つことになるだろう。
それと比べても、切り捨てられないほど彼らは本当はバスケが好きなのだ。
決めることができない三人組に俺は歩み寄り、清原の胸倉に掴み取り、いじめ教室では響くことがなかった心に響くように大声で言う。
「お前らはそんな人が大切にしてるもんを目の前で燃やしたんだ!その重みをわかってんのか!」
俺の気迫に押される清原と井野と大原。。
「お前らは確かに理不尽な理由で夢を奪われ、絶望したかもしれない。だけど、それを他人にぶつけるのは間違っている!お前らは、もう一度踏み出すことだってできるんだ!」
「なんだよ!偉そうに!お前だって諦めた人間だろ!俺らのことをとやかく言えるのかよ」
「そう、俺は諦め逃げた人間だ。それでも、俺は自分の夢のために、自分のために努力している人間を否定することは絶対にしない!」
俺はさらに、歩み寄って自分の熱意をこめて叫んだ。
「いいか、人間は誰だって大切なものを持って、その人なりの信念がある。それを否定して踏みにじる行為は最低な行為だ!これ以上、人を蹴落として傷つけることは絶対にするな!そんなことをするなら自分を磨いて、のし上がれ!わかったか!」
「わかったよ」
反省したように答える三人組。
俺は三人組にバスケットシューズを返す。
「おまえら、吉田にしっかり謝れよ」
頷き、三人組は吉田が座るベンチの方へと向かっていく。
吉田の目の前に立ち、勢いよく頭を下げ、
「すまなかった。今までいじめてお前の大切なものを燃やしてしまって」
「ごめん!」
「本当にごめん」
「償えるとは思っていないけど、何でも言ってくれ。もし、警察に行くんだったらもちろん従う」
どうやら覚悟を決めたらしい。自分のこれまで行ったことをしっかりと反省して、罰も受けるつもりだ。
「ううん、いいよ別に。僕も殴ったり、噛みついちゃったりしたし。これからはいじめなんかしないで真面目に生きてよ」
優しく謝罪を受け入れた吉田。そのうえ何のお咎めもなしなんて、甘いやつだな。
まぁ、そのお人よしさが吉田の良いところだけど
「え、でも俺たちはお前の大切なものを燃やしたんだぞ」
「あー、それのことなんだけど。お前らが盗んだのは俺が買ってきた偽物のスケッチブックだから安心しな。吉田のスケッチブックは花菜が持ってるよ」
俺は、放課後に吉田がいじめられることをあらかじめ想定して、スケッチブックを俺が買ってきたものと入れ替えていた。バレないようにスケッチブックの中身は俺が美術部の阿部に依頼して適当に描いてもらった。
「はーい、吉田君これ、大事に預かってたから」
花菜は預かっていた、スケッチブックを吉田に渡す。
「ありがとう、よかった戻ってきて」
スケッチブックを大事そうに抱いて安堵する吉田。
「さて、吉田も嗚呼言って許していることだし、先生には報告しないでいてやる」
「ほんとうか?」
「ただし、吉田の言っていた通りいじめなんかせず真面目に生活しろよ」
「分かってる」
「それと、俺が言える立場じゃないが、バスケ真剣にやったらどうだ?バスケ部のやつらはお前らと一緒にバスケしたいって言ってたぞ」
驚きを見せる三人組。いつも練習をサボって、真面目にバスケをしていなかった三人には思いもしなかったことだろう。
「それは本当なのか?」
「本当だよ」
俺が三人のことを圭人と一緒に聞きまわってるとき、バスケ部の人たちは「いつもサボってるけど、来たときはしっかり教えてくれる」とか「上手だし、アドバイスもしてくれる」と言っていた。
「だから、バスケを真剣にやるのもいいんじゃないか?」
三人は顔を見合わせて、頷き、
「そうだな、もう一度一から始めてみるわ」
そして、三人組はもう一度吉田に謝って、真面目に生きることを誓い、公園を後にする。
圭人と花菜にも今回の作戦に協力してくれたお礼を伝えて先に帰ってもらった。
雲がかった曇天の空はもう開け、赤い光を射す夕焼けがこの静かな公園を照らしている。
残っているのは俺と吉田。
「今日までの一週間、お疲れ様。これで依頼は達成。よく頑張ったな」
「ありがとう、これも全部笹原君や工藤君、朝比奈さんみんなのおかげだよ。ありがとう」
「さて、俺との約束は覚えてるよな、しっかりと報酬をもらうぞ」
「ああ、そうだったね」
思い出したかのように答える吉田。
「で、報酬って」
少し、おびえたように聞く吉田。
そんな吉田に俺はこう言い放つ。
「簡単なことだ。もし、お前と同じ悩みを抱えた人が現れたら、その時は今回の俺のように助けてやれ」
いじめはどこにでも普遍的の存在するものだ。今回はたまたま俺が吉田がいじめられていることに気づき助けることができたのだ。
だから、そんな人に手を差し伸べ、助けられる人間をたくさん作ることが大切なのだ。
もし、学校でいじめがあったとしても、もう俺が助ける必要はない。なぜなら、手を差し伸ばすことができる吉田がいるからだ。
一人で無理なら、人に頼る。これが現実的な答えだ。
「え、それだけ?」
「そうだよ、約束できるか?」
俺は右手を差しだし、握手を求める。
「も、もちろん」
吉田は俺の右手をがっつり掴んで握手を交わす。
そうして、俺たちは公園に別れを告げ、駅まで吉田が好きなアニメの話をしながら向かっていた。




