【9話】いじめられっ子と現実主義者
頑張りました。見てください
「え」
吉田は困惑している。
吉田は恐らくこのクラスに入ってからさっきの三人組にいじめられていたのだろう。放課後には悪口を叩かれ、机を荒らされ、俺が見ていないところでもいじめられて、涙を浮かべるほど悲しかったんだろう。
親や先生にも頼ることができず、一人で抱え込んできただろう。
そんな彼が、いじめに耐え兼ね、限界を超えて、涙を流していた時、たまたまこの現場に居合わせて、クラスメイトという共通点を持ち、自分がいじめられるていることを知っていて、学力も高く、花菜や圭人などのカースト上位の友人がいる俺に頼ってきた。吉田から見れば俺は天国へとつながる一本のクモの糸なのだ。
彼にとってはこれは勇気ある決断だっただろう。
そんな告白を俺は拒否した。
「言葉の通りだ。断る」
「ど、どうして?」
「当たり前だろ。俺に何の得もないんだから」
そう、何度も言うように俺に何の得もないのに助けるはずはないのだ。
俺は、現実主義者で効率を好む男だ。何の交友関係もないクラスメイトを俺が助けるために時間を浪費するのと勉強に費やすんだったら、どう考えても後者をとる。
「だが、報酬をもらえるんだったら別だ」
そう、俺が彼を助けるにあたって失う勉強時間の機会損失を埋めるか、それ以上のリターンがあれば話は別だ。
「え、報酬って?」
吉田は少し青ざめた顔になる。うん?報酬を要求しているだけなのだが
「そ、報酬。ただ働きなんて御免だからね。大丈夫。難しいことじゃないから」
「僕、お金持ってませんよ」
「お金なんて要求しないわ!」
吉田の顔は青ざめた顔色から通常の顔色に戻ってきた。
なに、こいつは俺がいじめられっ子に金を要求する薄情な奴だと思ったのか。心外だなあ。俺は確かに行動にはしっかりとした見返りを請求するが、そんな金品を請求する悪者と一緒にしないでいただきたい。
「ほんとに大丈夫だから、俺は金に困ってないし、報酬はほとんど自動的に問題解決したらもらえるようなものだからだ」
「そうなら、いいんだけど」
「こんな問答は時間の無駄だ。もう下校時間だから、相談は近くのファミレスで聞くから、早く片付けて行くぞ」
俺は、吉田と荒らされた机や荷物を片付け始める。
よくもまぁ、こんなにも荒らしたもんだな。
俺は散らばった参考書やノートを吉田の机の上に置いていく。すると、学校には見慣れないものがそこにあった。
「スケッチブック?」
俺が見つけたのはスケッチブックだ。吉田は確か帰宅部で美術部に所属していないから不自然だなと思った。
そのスケッチブックを開くと、そこにはたくさんのキャラクターが描かれていた。
アニメをあまり見たことのない俺でも知っているような国民的なアニメのキャラやたまに本屋で見かける漫画やライトノベルのキャラなどが臨場感満載でそこに存在していた。
俺は、素直に綺麗だと思った。鉛筆だけで描かれたモノクロのキャラや漫画のような演出が凝らされていたイラスト、コピックで色鮮やかに描かれた背景。
それがページをめくるごとに何枚も現れる。
このスケッチブックを見るだけで、こいつがどれほどイラストやキャラを書いてきたことが分かる。何度も何度も書いたことで完成したであろうクオリティ。
俺がスケッチブックをページをめくり返しながら、鑑賞していると、それに気づいた吉田が俺から強引にそのスケッチブックを奪っていった。
「な、何勝手に見てるんですか?」
「え、許可必要だった?」
「いや、別にそういうわけじゃないけど」
「なら、いいじゃん。お前のイラストすごい綺麗だと思ったよ」
「え、ほんと?」
吉田はスケッチブックを大切に抱えながら、少し照れ臭そうに聞く。
「うん、正直俺はアニメのキャラクターとかよくわからないし、イラストにも詳しくないけど、素人目線だけど、俺はいい絵、イラストだと思うよ」
「あ、ありがとう。褒めてもらうことなんてめったにないから、本当にうれしいよ」
うれしそうにうなずく吉田。すごい感謝してるなこいつ。涙ぐんでるし。こっちはただ、褒めてるだけなんだが。
うん?このままだと、こいつ俺に惚れるんじゃね?
やばいやばい。早く話切り上げよ。
「ほら、早く片付けるぞ」
そして俺たちは荷物を片付け、下校時間前に学校を出て、近くのファミレスに向かった。




