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「ここが、『おもちゃ箱』の終点だ」


 サファミアはぴたりと足を止め、クリステリアに向き直った。仄暗い蒼のグラスアイが一瞬だけクリステリアを捉え、そして、ほど近い位置に積まれた布切れの山を見た。

 たくさんの布切れの中にはひび割れた足や腕、欠けた顔がいくつも埋まっていて、その一番上には人形の手が一本刺さっていた。もう動かないその手が指さす先、天井はひび割れており、その隙間から差し込む一筋の光の中で、キラキラと粉埃が散っていた。


「この山は……」

「これは墓石みたいなもんさ。完全に動かなくなって行き倒れたら、ここへ捨てられる」


 サファミアは足元の布を蹴り上げる。ふわりと砂埃が舞う。


「『おもちゃ箱』へ来た時点で、腕や足が欠けてしまっている人形が多いんだ。顔の半分なくなってたのもいる。近い将来、みんなここに来る。もちろんあんたもね」

「そんな、直すとかは……」

「できるにはできるよ。その辺の箱の中にいる人形からちょっとパーツを拝借すればね」

「えっ……じゃあ、今まで聞こえてた声って……」

「箱の中から出られるほど力が残っていなくて、ぺちゃくちゃ喋るくらいしかやることがなくなった人形たちの声さ。うめき声も混ざってただろ? あれは元気な奴にパーツ取られたんだろうね」

「……そんな」

「フン、あんたは綺麗なパーツ揃ってるし、あたしが欲しいくらいだよ。まあ、合わないのを無理やりつけ代えるなんて、寿命が縮むような真似しないけど」


 そう言いながら、サファミアはクリステリアの体をじろじろと品定めする。

 クリステリアは血の気が引いた。こんな世界があったなんて。今までの穏やかな生活がよぎる。本当に恵まれていたんだ。なのに、どうして急に、みんな変わってしまったのだろう。

 この世界なのか。それとも自分なのか。それは到底分からないのだけど。


「――だけど、その紅い目はいいね、ここまで案内した駄賃にくれよ」


 じろりと、サファミアの蒼いグラスアイが、クリステリアの動揺に揺れる紅いグラスアイを捉えた。

 空よりも深く仄暗く光る蒼いグラスアイ。そのグラスアイの奥深くでは何かに静かに憤っていた。


「絶対に、あなたに渡さない……」


 サファミアのグラスアイをしっかりと捉え直し、クリステリアは答えた。

 じっとサファミアのグラスアイを見ていると、クリステリアにも怒りの感情が湧いてくるようだ。


「フン、あんたの意志なんてどうでもいいのさ。その目があれば――ここを出られる」


 クリステリアのまっすぐな視線に辟易したのか、サファミアは目を逸らして呟いた。


「『おもちゃ箱』を出られる? どうやって?」

「そんなの、教えるわけないじゃん! 何、あたしの邪魔しようって!?」


 クリステリアが驚いて聞き返すと、また、サファミアが大きな声でわめき始めた。サファミアはとても怒りっぽい。怒る以外の感情を持っていないのではないかと思うほど、常に怒鳴り、物に当たっていた。

 この怒りの感情も『おもちゃ箱』へ入れられてしまった一つの原因だと言っていた。確かにこれでは、使用人として主にお茶を出すことは難しいだろう。


「あたしは嫌なんだ! 納得できない、こんなところでくたばるのは! こんなところさっさと出て、『あの子』を殺してやる!」


 サファミアは無造作に積み上げられている、大小さまざまな箱を蹴り散らかす。いくつもの箱の中から小さな悲鳴が聞こえた。ぞろぞろと、後ずさる気配もする。


「すぐ怒る? 怖い? あたしは確かに壊れてるのかもしれない! だけど、綺麗だからってそのままの人形もいるのに! あたしは醜いからって『あの子』の一言で『おもちゃ箱』に放り込まれるなんて! こんなの世界のルールなんて納得できない!」


 サファミアがいつも怒っている理由。それは、きっと、どうしてここに捨てられたのか納得できずにいる憤りだけではない。とにかく、納得できるまで何としてでも生き抜いていかなければ、という固い意志があるからなんだ。

 暴れ回るサファミアを見て、クリステリアはふっとそう思った。

 クリステリアもただ疑問を口にしたら、説明も満足にしてもらえず『おもちゃ箱』に捨てられたのだ。こんな理不尽なことがあるだろうか。みんながみんな口をそろえて、それがルールだというのなら、この世界が間違っている。

 ――生きなければ。生きて、何が正しいのか、確かめなければ。


「サファミア、一緒に『おもちゃ箱』を出よう」


 クリステリアの紅い意志に燃えるグラスアイは暴れるサファミアの動きを止めた。


「それで『あの子』に聞こう、どうして捨てられたの、って」


 ね、とクリステリアは笑いかけてサファミアに手を差し伸べる。

 らんらんとした怒りが渦巻く仄暗い蒼いグラスアイを、クリステリアの紅いグラスアイがじっとのぞき込むと、ゆっくりとそのうねりが静まっていく。


「……どうやって出られるのか、知らないくせに。何言ってるんだか」


 やがて観念したように溜息をつき、サファミアはクリステリアの手をとった。


「でも、絶対にこの目は渡さないけどね? 別の方法を探そう」


 クリステリアは嬉しそうに笑いながら、その手を強く握り返した。

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