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最初に目に入ったのは、青空だった。いや、青空のように澄んだ水色のグラスアイだった。
「あれ? 目を覚ますってことが出来るんだね。ここにきたのは頭の故障か。五体満足だから変だと思った」
「あなたは、一体……? ここは……?」
見慣れない灰色の天井。満足に光も届かない薄暗く鬱々とした部屋でクリステリアは意識を戻した。
目の前には見知らぬ人形がいた。青く長いストレートヘアに水色のグラスアイ。ロベリアやアザミと同じように関節球がついた両腕についているメカニックな装飾品が一際目をひいた。
クリステリアの問いに少し掠れた声をしたその人形は挑発的に答えた。
「ここは『おもちゃ箱』だよ。人形の墓場。そんなことも知らないの」
「知らない……」
言い返す気力もないまま、クリステリアは小声で答える。
苛ついた様子で見知らぬ人形はさらりとした長髪を耳にかける。その耳は人間のそれとは違った長細い形の機械耳だった。
「ちっ、張り合いのない奴。あたしはサファミア。あんたは? どこから来た?」
「クリステリア……。さっきまで、ロベリア様と話していて、それで急に意識を失って……ここに」
「ロベリア様? ああ、あそこか。『あの子』大事にされているショウケースの中でもジャンクって出るんだね」
「ジャンク? ショウケース? 『あの子』って、さっきから何のこと……?」
「本当に壊れてるんだなあ! 『あの子』も知らないなんて!」
「さっきから失礼だ、壊れてなんかいないよ」
急に出したサファミアの大声に驚きつつもムッとしたクリステリアは起き上がる。
「いいや、壊れてる。驚いたり、怒ったり……意識もある」
「あなただってあるでしょう。こうやって喋ってるんだから」
「……あたしは、怒りの感情が出てしまって『おもちゃ箱』に捨てられた。あたしのこの体。『あの子』は気に入らないんだと。……好きでこんな体になったわけじゃないのに!」
怒っているのだろうか、自分の腕の装飾品を叩きながら、サファミアは体を震わせる。
「ここは、世界のルールから外れた人形が行きつく場所――人形の墓場だよ」