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「ロベリア様、お茶とお菓子をお持ちしました」
ワゴンを押しながら、クリステリアは明るい中庭で白いガーデンチェアにゆったりと座るロベリアへ声をかけた。
「あら……。今日はクリステリアなのね」
「はい、緊張しますが、お茶を入れさせていただきます」
それを聞いてロベリアは小さく微笑んだ。小悪魔のように愛らしい笑みだった。
つやのあるブロンドの巻き毛に雪のように真っ白な肌に桃色の頬紅をしたロベリアはとても美しかった。人形だとは思えないほどに生気が通っている。
「なぁに? わたしの顔に何かついているかしら、クリステリア」
「いえ……お美しいな、と」
「うふふ、褒めても何もでないわよ」
ロベリアは口元に手を当てながら、クスクスと笑う。やはりその手の関節は球体がはめ込まれている、人形のそれだった。
「クリステリア、何か悩み事でも?」
ふいに、ロベリアは尋ねる。
ティーセットを並べていたクリステリアの手がぴたりと止まった。
「……いいえ。ロベリア様のもとで働けて幸せです」
ロベリアと視線を合わせられず、クリステリアは伏し目がちに答えた。
「本当に?」
雪の結晶のように輝く青いグラスアイがじっとクリステリアを見つめる。
「……本当ですよ」
どうにか口元の微笑みを取り繕い、見つめ返すことができた。
隠さなくてはならない。クリステリアの本能がそう告げていた。
人形であることを気づいてはならない。気づいてないふりをしなければならないのだ。
お湯の入っていないポットを傾け、カップにお茶を淹れる真似をする。
プラスチック製のカップケーキが乗ったお皿をケーキスタンドに並べる。
いつも通り、気づく前と同じように、そうやって『お人形ごっこ』をすれば、ロベリアは満足するのだ。
クリステリアは引きつった笑みを浮かべながら、ぎこちない手付きで、準備をしていく。
「ロベリア様、それでは、ごゆっくりお楽しみください」
妙に長く感じる沈黙を乗り越え、支度を終えたクリステリアは深々とお辞儀をする。
やっと終わった。そんな安心感から短く息を吐いた。
「クリステリア」
去ろうとするクリステリアの背に、声を投げられた。
「絶対に、誰にもそれを言っては、ダメよ?」
振り向いたクリステリアの目には、悪魔のように妖艶に笑うロザリアの顔が見えた。