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ルフェ古書堂にいらっしゃいませ  作者: 石山 カイリ
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ここはルフェ古書堂

 ここはとある町の近くにある森。

 その奥にある巨木。それを繰り抜いて作ったルフェ古書堂。

 八百年前に大きな戦争で、帝国に、滅ぼされた一国の跡地を開拓し近くの町。が出来たのは、今から五百年前。

 それより、遥か昔からこのルフェ古書堂は、存在している老舗である。そこを営んでいるのは、自称二代目だという一人の女店主が経営している。


 驚くことに、五百年もの間、世代交代一切せずに、老いを知らず人間離れした美貌を保ったまま、古書堂を経営している。ここの女店主の名は、スノゥドロップ。近隣の町では《スノゥ》という相性で慕われている、永い時を生きるエルフだ。

 では、近くの町はエルフの町かって?


 それは違う。並人(なみびと)や、ドワーフやウェアウルフなどと言ったかつて亜人と言われていたものから、ウンディーネやサラマンダーなどとかつて精霊と呼ばれるもの達のような多種多様な人間が暮らしている。

 まあ、とはいえ、人口は圧倒的に並人。つまり、昔は人間と呼ばれた者達の数の方が、圧倒的に多い。


 また、エルフは他種族嫌いなイメージが強いが、そのイメージはすでに古い。

 現に、スノゥは、町の開拓当時こそ、関わらなかったものの、もともとが世話焼きな一面もあって、開拓に積極的に協力をした。

 その功績と感謝の意を表し、町の名前はスノゥの名前由来の【エスペランサ】と、名付けられた。


 今もなお、スノゥはちょくちょく町に行き買い物や交遊を楽しんでいるし、その逆も然りである。

 とくに、ここ最近、訪ねてくる人が増え、永い時を生きるスノゥは飽きることなく、いや、今まで以上の順風満帆な生活を送っている。

 それもこれも一人の人物のおかげである。

 おや、噂をすれば、そのきっかけとなった人物が訪れたようだ。


  * * *


 年端も行かないあどけなさを感じる少女。くりりと丸い大きな瞳。髪は栗色の髪のふわりボブ。少女はスキップをしながら、小路からルフェ古書堂に向かっていた。

 途中、カカシが立っている店主が暇潰しでやっている畑の前を通る。それは、ルフェ古書堂が近いことを意味する。と、そこから少女は、若干向かう足を早める。


 数分後。少女はルフェ古書堂の前に到達した。しかし、残念なことに、店の扉には『CLOSED』という札が掛けてある。

 それにも関わらず、少女は扉を二度、三度とノックした。

 一件、失礼な行いにも取れるが、この少女においては、話がまた別だ。なぜか。それは……。

 

 扉を叩くと同時に、元気な声を発する少女。

「スノゥお姉ちゃーん! 今日も手伝いに来たよー?」

「いつも、ありがとうございます。さぁ、今日も頑張りましょう」

 そんな輪とした声とともに扉が内側から開いた。中から表れたのは、眉目秀麗の言葉が良く似合うエルフの女性。


 そんな女性に感謝を言われて、少女ははにかむ。

「ううん。あたしこそ、ここで働かせてくれてありがとう! おかげで毎日楽しいし、お給金だって貰えてるうえに、お姉ちゃんの畑で取れた野菜もくれるし、お姉ちゃんが狩った動物のお肉もくれる。その上、褒められたらあたし貰いすぎ、だよ……」


 その年相応とは到底、言いがたい少女の返しに、スノゥはかたちの良い眉を寄せながら、ため息をつく。

「……良いですか? 子供は大人に気を使ってはならない。これはどこの世でも常識です。もうちょっとワガママを言っても、誰も怒りません。それにあなたは両親を事故で亡くしています。本来なら町で保護される対象なのですよ?」


「うーん。それもそうなんだけどさ。働けるのに、自分でなんでも出来るのに。養われているのは申し訳ない。というか……」

 頬をポリポリと気まずそうに指でかくシャイニー。

「ええ、あなたの生活能力は高い。それは認めます」

「いやー、それほどでも」


 照れるシャイニーに、スノゥがやや声を荒げるように言葉を続ける。

「ですが! あなたはサバイバル能力はからっきしなんですからね。これで断りでもしたら、また、狩に向かうでしょう?」

「う……。そ、それはだって、町の皆が働かせてくれないんだもん……」

 口を尖らせながらモゴモゴ動かすシャイニーを軽く叱責する。


「ですが、死んだらもとも子もありません!!」

 スノゥの叱責は最もだ。現に、シャイニーは一年前、食料調達よため、単身森に入り、そこで野犬に襲われかかっている。

 そこをスノゥが通りかかり、保護した。

 あの時、スノゥが通りかからなければ今頃は……。それを分かっていないほど、シャイニーは子供ではない。


「ごめんなさい……」

 か細い謝罪を聞き入れたスノゥは、シャイニーの頭に手を乗せる。と、同時に声。

「分かればいいんですよ。さて、シャイニー。私は罠を確認して来ますんで、その間に、野菜を取ってきてください」


「はーい」

 元気いっぱいに返事をするシャイニー弓矢を背負って、森へと出掛けるて行く、スノゥを見送った後にシャイニーは畑で太陽のように成熟したトマトや、真ん丸に太ったナスやら、食べ頃の野菜を収穫していた。


 その最中、スノゥの艶やかな長いレモン色の髪が脳裏に甦る。そして、自分の栗色の前髪をいじりながら、ため息とともに不満を漏らす。

「はぁ……。あたしの髪もスノゥお姉ちゃんみたいな太陽の光みたいな色だったらなぁ……。そしたら、本当の姉妹に間違えられてたのに…………」


 そんなことを呟きながら、野菜を収穫するシャイニー。と、次の瞬間、後ろから突然、声が聞こえてき跳び跳ねることとなった。

「残念ながら、私の髪色はエルフ族の中でも、更に特別なものなよで、そう簡単にはなれませんよ?」

「ひゃう!」


 可愛らしい反応を目の当たりにして、口に手を当て上品に笑うスノゥ。

 その半秒後に、シャイニーは頬をパンパンに膨らませながら振り返る。

「おねえちゃーん?」


 その声は怒っていたが、愛くるしさのほうが全面に出ており、全然怖くはなかった。むしろ可愛かった。

 スノゥはなおも笑いながら、謝罪。

「ごめんなさい。機嫌をなおしてください」

 プイッと「フンッ! 知らない!」顔を横に向けるシャイニー。


 こうなったシャイニーは山火事が起きても、狼に食べられそうになっても動かないのを知っているスノゥは、困り顔で微笑み、人差し指を立て声。

「そうです。一つ商談と行きませんか?」

「しょーだん?」


 シャイニーは聞き慣れない言葉に耳をピクッと動かし、横目でスノゥのことを見る。

「そうです。商談。つまり、取引です。私は自身の願いが叶った時、シャイニー。あなたに私の髪でウィッグを作るとお約束いたしましょう……」

「お姉ちゃん、それ本当!?」

 目を輝かせながら詰め寄るシャイニーを、スノゥは落ち着いて宥める。


「こらこら、これは商談なんですから、あなたも何か差し出さないとならないんですよ? そんなのでは、いつか無理難題を取り付けられてしまいますよ?」

「はーい!」

 純粋で軽い返事。分かっているんだか、わかっていないんだか。いずれにせよ、可愛いから良いや。でスノゥは片付け話を進める。


「あなたはここで働くとき、私にいくら腹を立てようとも、私が仕事関係でお願いしたことは必ず引き受けてください」

「そんなことでいいの?」

「はい。私にとっては、あなたが動いて貰えないと死活問題ですから」

「うん! わかった!」


「では、商談成立の握手と行きましょう……」

「……」

 手を差し出すスノゥ。しかし、その手をシャイニーは、訝しげに見るのみで、いっこうに取ろうとはしなかった。

 その様子を見ていたスノゥは声を掛ける。


「どうしましたか?」

「そう言えば、お姉ちゃんの願いって何なのかなーって……」

 スノゥは苦笑。

「あぁ、そう言えば言ってませんでしたね……。私の願いはかつての友たちに会うことです。もし、私が髪型を変えていたら、あちら側からは気付かないかもしれないでしょう? といっても八百年も会えてませんがね」


 にこやかな中に、陰りがある。そんな表情を読み取ってか、純粋な子供だから成せるものか、シャイニーは声。

「そっか、会えたらいいね!」

「ありがとうございます」

 スノゥのは上品な笑みを返した。


「でも、さすがに会えるまで待ったら、あたし、死んじゃうかもだから、最大何年後かまでは決めて欲しいな」

「それもそうですね。では、六年後。あなたが成人した時にお渡ししましょう」

 その町その町で成人年齢は違うが、大抵は十五歳が一般的である。近くの町エスペランサもまた、成人年齢は十五歳となっている。


 その妥協案を聞いた、シャイニーは満面の笑みで答える。

「うん! わかった! じゃぁ。しょーだん成立だね!」

 言い切ると同時に、スノゥの差し出されたままの手を力強く掴んだ。その光景を客観視したスノゥは、口の中でこう粒やいたのだった。

「あなたの将来が本当に楽しみです」

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