プロローグ
木漏れ日が気持ち良い森の中。
開けた空間。
そこに、樹齢一万年声の巨木の内部をくり抜いたソレがある。
ソレの入り口がある反対側。
ソレの根と根との間、幹を背もたれにして一人の女性が、暖かな陽光を前身に浴びながらスース―と寝息を立てている。
レモン色の長い髪。頭頂部からはピョコンと、一掴みほどハネている。
染み一つない雪肌、触れると折れてしまうのではなかろうか。と思うほどに華奢な四肢。
穢れを知らない純白のワンピースに、漆塗りの革ブーツ。
容姿は端麗で幻想的。どこかのお嬢様か、もしくは、森の妖精がそのまま現界したかのような、そんな風貌。
それもそのはずで、彼女の耳は尖っており、長い。そう、彼女はエルフなのだから、そんな雰囲気が出ていることは当たり前なのだ。
そんな彼女が無防備に寝ていると、巨木の反対側。つまり、ソレの入り口があるほうから、健気な印象を伴う少女の声が、聞こえてきた。
「お姉ちゃん! 来たよー」
しばらく待って、反応が無いことを確認すると、声の主は巨木の裏側へと、移動を開始。
そして、呑気に寝ているエルフの女性を見つけると、少女はため息を一つ。その後に、とてとてと歩み寄ると、しゃがみ、寝ているエルフの身体を揺らす。
「スノゥお姉ちゃん。ほら、起きて。もう時間だよ」
「うーー? シャイニー。あと少しだけ……。むにゃむにゃ……」
その様子は朝、起きたくないと駄々を捏ねる子どもとそれを叩き起こそうと、母親の闘いを連想させる。
「ダーメ! だって、そう言って、スノゥお姉ちゃん寝かして上げてたら、日が暮れるまで寝てるんだもん! それにもうすぐお昼だから、そろそろ準備しないと間に合わないよ!」
「んーー? わかったよー。起きるから―」
眼を擦りながら上体を起こした、エルフ。レモン色の長い髪が舞う。
そして、大きくアクビを一つつくと、そのエルフはようやく眼を開ける。
切れ長で瑠璃色の双眼。
起こした少女が、あまりにもの美しさに見とれていると、エルフは声を掛ける。
「何してるんです? シャイニー。早くしないと、皆さん来ちゃいますよ? その前に仕込みをすませまんと」
言い終わるとエルフはおもむろに立ち上がり、スタスタと表に回り込む。
「もぅ、ホント。寝てる時と起きてる時の印象、まったく違うんだから……。寝てる時はホント、ダメルフなのに、起きるとなんであんなにカッコいいんだか……」
呆れ声で少女がそう不満を漏らしていると、
「シャイニー、何をしているんです? 早く来なさい」
と、エルフの凛とした呼び声がソレの表から聞こえて来た。
その声に少女は満面の笑みで駆けていく。
「はーい!」