第9話 カリスマ闇ギルドマスターを成敗せよ!(下)
まさにメロンがアジトへと入り込もうとしたその時、アーサーが突如声を上げた。
「おい、あれを見ろ……あの女子たちは?」
スパンキー女子たちが、恍惚とした目つきのままふらふらと裏口から外へと出てくる。手にはスパンキーの著した書物などを抱え、うわ言のようにスパンキーの名をつぶやきながら表通りへと歩いていった。エイプリルは一瞬不思議そうな表情を浮かべたが、すぐに何かに勘付き目を見開いた。
「これは……サラが!」
「うむ。一刻も早くサラの元へと向かわねばならぬ……だが、まずは三下どもを何とかせねばな」
スパンキーの他、アジトには10人の男たちが潜んでいる。エイプリルはメロンを見た。メロンは、手を振ってアジトへと飛んでいった。
「おまかせメロ! サラのこと、絶対に助けるメロ!」
「ぐっ、うう……!?」
俺は目を覚ますと、その光景に目を疑った。さっきまでスパンキー娘たちが群がっていたその部屋に、俺は再び戻っていた。さっきと違うのは、俺は大きな柱に手足を縛り付けられ、身動きの取れない状態になっているということだ――
「お目覚めのようだね、泥棒猫ちゃん」
スパンキーに泥棒猫呼ばわりされ、俺はムッとした表情を浮かべた。すると、スパンキーは手に持った鞭で俺を勢いよく打った。
「あぁっ!!」
灼けつくような痛みが、胸元から足にかけて走る。苦痛に身悶えすると、スパンキーは嗜虐的な笑みを浮かべて吐き捨てた。
「泥棒猫ちゃんにはそれ相応のお仕置きが必要だ。俺はレディには優しいんだ。2つの選択肢をやろう――」
スパンキーの爬虫類のような目が、俺をじろじろと舐めるように見回している。俺がゴクリと喉を鳴らすと、スパンキーは右手を上げた。
「ひとつは、今この『八つ裂きスパンキー』様にその五体をズタズタに裂かれて死ぬか――もしくは、このスパンキー様の玩具として絶対服従を誓うかだ――どうだ、泥棒猫ちゃん」
スパンキーの表情が狂気を帯びる。俺は首を振った。
「どっちもお断りよ……もうすぐあたしの仲間がきっとここへやって来る。許しを乞うのはスパンキー、アンタのほうよ」
俺はそう言ってスパンキーに唾を吐いた。スパンキーの目が一気に血走り、こめかみには青筋が浮かぶ。怒りに震えたスパンキーはその場で怒鳴り散らした。
「抜かせ! 抜かせ抜かせ抜かせ! 自由を奪われた分際で何をほざく!? 大体貴様は何者だ! なぜここへ来た!?」
俺は縛り付けられたままスパンキーを見下ろすと口を開いた。
「何も知らない初心者ハンターを洗脳して金品を巻き上げ、金の尽きた冒険者はクエストと処して始末する――アンタたちの所業を決して見過ごすことはできない。あたしはサラ。リーマン王国の王女よ。国の平和を脅かす者はあたしが成敗するの」
俺の言葉をスパンキーは鼻で笑うと、俺の方へとつかつかと歩みよって拳を振り上げた。
「小娘ごときが平和などと! 笑わせるな! 力こそ正義。富こそ正義! 夢物語を信じていたことを後悔するがいい!」
スパンキーは俺の顔を殴りつけると、ドレスを破り鞭で二度三度と打ち付けた。
「ぐっ、ううっ……!」
メロンの作り出した幻影で、黒服たちはギルドの外へと誘い出された。そこへ、待ち構えていたアーサーが斬りかかる。大魔導士アーバインの魔力で凍気を帯びた両刀剣で一刀両断された黒服たちは、ギルドの外で氷の柱と化して気を失った。両刀剣、いやアーバインは高笑いを響かせた。
「よおおおやくじゃ! 待ちわびたゾイ! してアーサーよ、この前の小娘は何処じゃ!?」
「アーバインに言われなくてもすぐ向かうさ。早く行かねばサラが危ういのだ」
アーサーとアーバインが話していると、ギルドの中からメロンが飛び出してきた。
「メロン! サラは無事なの?」
エイプリルが訊ねると、メロンは慌てた様子で手招きをした。
「話は後メロ! 早く行かないとサラが危ないメロ! こっちメロ!」
鞭打たれ真っ赤に染まった胸元に、血が滴り落ちる。スパンキーは興奮した様子でヘラヘラと笑うと、再び俺の足元へと近づいてきた。
「いい表情してるじゃんかよ、泥棒猫ちゃん。その痛みと憎しみと恐怖に満ちた顔を見るとよォ、興奮すんだよなァ……ヒヒヒ」
歪んだ性癖を見せつけられて、俺はさぞ苦い顔をしていただろう。なんとか身動きを取ろうとするも、身体が自由になるはずもない。スパンキーは舌なめずりをしながら俺に顔を近づけた。
「さっきの答えは出たか? 答えないなら運命は俺が決める――貴様は俺の玩具として飽きるまで遊んでやる――だが、用済みになればサヨナラだ」
そう吐き捨てて、スパンキーが俺に触れようとしたその時だった。聞き覚えのある、キンキンとした叫び声が広間に響き渡る。
「そこまでじゃ! 貴様のような変態男はこの場で丸焼きじゃアアアァ!」
部屋へ駆け込んできたアーサーが両刀剣を構えると、その刃が炎を灯す。アーサーが一閃すると、炎は振り向いたスパンキーの身体を包み、スパンキーは一瞬にして火だるまと化した。
「ウワアアアアッ」
「サラ!」
エイプリルが駆け寄って来て、俺を縛り付けていた紐を解いた。俺は床に崩れ落ちると、エイプリルは俺に治癒の魔法をかけた。
「ごめんねサラ、わたしのせいで……」
涙ぐむエイプリルに、俺は首を振った。
「いいのエイプリル、それより、捕らえられている女の子たちを……!」
エイプリルが奥の部屋へと出てゆくと、俺は視線をスパンキーに戻した。焼け焦げたスパンキーは呻き声をあげていたが、一言言い残してその場に崩れ落ちた。
「ウッ、ウグググゥウッ、……様アッ……ダライアス様アアッ……ゲボオオッ」
(……ダライアス?)
俺は、スパンキーの遺したその一言に違和感を覚えつつ、戦いの疲れと安堵からその場で意識が遠のいていった。
白昼堂々とアジトを制圧したため、騒ぎは市井の臣民の知るところとなり、一命を取り留めたスパンキーは姉のパトリシアが率いる王宮自警団によって逮捕されたが、後に王宮前の広場で磔にされた上公開処刑された。
「難儀な任務、ご苦労であった」
父、ことリーマン国王の言葉に俺は深く頷くと、スパンキーの遺した言葉について訊ねた。
「ダライアス、のう……聞いたことのない名前だが」
「おそらく、スパンキーたち闇ギルドの胴元なのかもしれません……闇ギルドはスパンキーたち以外にも複数存在が報告されています。もし、このダライアスという者が他の闇ギルドの件にも関わっているというのなら……」
「早々に制圧せねばならんな……サラ、これからの任務にも期待をしておる。くれぐれも、己の身に危険が及ばぬようにの」
「承知いたしましたわ、お父様。それで――」
「……それで?」
俺の目つきで父は何かを悟ったらしく、視線を逸らそうとしたが俺はわざとその視線の先に回り込み、父に右手を差し出した。
「この前の件で、気に入ってたドレスをボロボロに破かれたの。ねえお父様、新しいドレスがほしいの。お小遣いちょうだい」
父はしぶしぶ懐から銀貨を取り出すと、無言で俺の差し出した手に握らせた。
【つづく】




