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第8話 カリスマ闇ギルドマスターを成敗せよ!(中)

 自らを指南役(コンサルタント)と豪語したスパンキーは立ち上がると、部屋の小上がりになったところにある演台へとゆっくり歩みを進めてゆく。スパンキーに追いすがるように、女性冒険者たちは嬌声(きいろいこえ)を上げながらその後ろ姿を我先にと追っている。しばし呆然とする(あたし)に、黒服がグラスを差し出す。


「どうぞ。スパンキー様から、冒険者としての第一歩を踏み出した皆さまへのお祝いです」


 差し出された液体は酒だろうか、ほのかに泡立ちながら、鮮やかなピンク色の光を放っている。


「スパンキー様ああぁぁ! スパンキー様はあたしのものよおぉっ!」


「ねぇスパンキー様ぁ、こっち向いてえぇん!? スパンキー様ああぁ!」


 スパンキーに熱を上げる女子冒険者――スパンキー女子とでも言おうか――が手に持つグラスは、とうの昔にすっからかんになっている。(あたし)はグラスの中身を凝視した。


(これは……!?)


 瞬時に(あたし)は察した。これはただの酒ではない! ほのかに放たれる光は、魅惑(チャーム)の魔法石を砕いた破片(かけら)を酒に溶いたものだ。その証拠に、スパンキー女子たちは視線も定まらず、なにかに取り憑かれたような表情を浮かべている。すると、黒服が(あたし)に声をかけた。


「どうされましたか? これはスパンキー様からの祝福の証。どうぞひと息に――」


 おそらくスパンキー女子たちは、疑いもせずに(これ)を口にするのだろう。これ以上怪しまれてはいけないと、(あたし)はグラスを掲げると黒服に声をかけた。


「エッ、これホントにもらっちゃっていいんですかぁー!? スパンキー様最高! じゃあ、スパンキー様とあたしの出会いを祝して、かんぱぁーい♡」


 呆気に取られる黒服とグラスを交わすと、(あたし)はくるりとスパンキーの方を向いて一気に酒をあおった。


「イエーーイ!! おーいしーーい!! もう、ホントスパンキー様ってすっごぉーい!! ねーぇ、お兄さん? ウエーイ♡」


 黒服に絡むと、(あたし)はさっさとスパンキーの方へと駆け寄っていった。急にテンションの上がった(あたし)を、黒服は呆然として見送っていた。




「こんな真っ昼間から、一体何が起きたというのだ?」


 朝が苦手なのか、アーサーは気だるそうに現れた。エイプリルが手短に事情を告げると、アーサーの顔色がサッと変わる。


「……大問題ではないか。多勢に無勢とはこのことだ。して、何時(なんどき)に突入するのだ?」


 アーサーに問われると、エイプリルは眉間に深々と皺を寄せる。


「アジトには今まさに捕らえられている冒険者がいると言うわ……サラがスパンキーの宴を抜け出して、その冒険者たちを探す。そうなればスパンキーとの交戦は避けられず、今あそこにいる門番たちもスパンキーの元へと向かうはず……そのタイミングを見計らって突入よ」


 エイプリルはそう作戦を説明したが、アーサーは首を傾げて表情を険しくした。


「なるほど。だが、万が一サラが捕らえられてしまったらどうするというのだ? そうそう物事が順風満帆に進むとは思えんのだがな」


「ううっ……」


 エイプリルは腕組みをして、うなだれてしまった。アーサーも同様に考え込んでいたが、ふとエイプリルの頭上を見上げると口を開いた。


「して、そこの妖精(ピクシー)よ。そなたもサラの仲間なのか?」


「メロ?」




 スパンキーが身振り手振りを使いながら、あの手この手でに語りかけるうち、先程まで嬌声を上げていたスパンキー女子たちはうっとりとした目つきになり、その場に崩れ落ちてゆく。すると、うわ言のようにスパンキーの名を呼ぶ女子たちを、黒服がひとりひとり担ぎ上げては広間(ダンスホール)を出てゆく。


(これか……!)


 酒と魅惑(チャーム)の力で前後不覚になり、スパンキーしか見えなくなった女子たちを個室に連れてゆき、黒服たちは”洗脳”を始めるという。冒険者養成の書と称して、スパンキーが記した書物に始まりペンダント、壺など高額な代物を買わせ続け、哀れついに金策尽きた冒険者は用無しとばかりに始末する――それがスパンキー一味のやり方だ。


「ひっ!! く……」


 (あたし)はわざとらしくしゃっくりをしてみせた。(あたし)は、酒を一滴も飲んではいなかった。黒服に背を向けた瞬間、酒をあおるふりをしてグラスに入った酒を足元にすべて溢したのだ。照明以外、足元の薄暗い部屋のおかげで黒服たちに気づかれることはなかった。(あたし)はもじもじとしながら黒服に歩み寄った。


「ねぇ、お兄さん? (かわや)はどこかしら? 案内してくださらない?」


「厠ですか?」


 黒服は一瞬怪訝そうな表情を浮かべたが、(あたし)は被せるように口を開いた。


「美味しいお酒をぉ、たっっくさん飲んだらぁー、あたし……おしっこしたくなっちゃった!! あー、どうしよう、おしっこ漏れちゃう漏れちゃう!!」


 黒服はギョッとした表情を浮かべると、(あたし)を廊下へと連れ出した。


「か、厠はこちらですっ!! そこから先は我々の部屋ですから、くれぐれも立ち入りなさらないよう願います!」




「メ、メロンが中に入って偵察してくるメロ!?」


「ご名答」


 思わず怖気づくメロンに、エイプリルは真顔で頷いた。


「だ、だってあんなムサい男だらけのアジトなんて嫌メロ!! あっ、あっ、エ、エイブラムと約束の時間メロ、そろそろ帰るメ……」


 逃げる口実を並べるメロンに業を煮やしたのか、エイプリルははたと手を伸ばすと、頭上をくるくると飛んでいたメロンを握りしめた。


「ンギャッ!!! ……な、何するメロ、離すメロ!!」


 エイプリルの顔つきが俄然厳しくなる。


「メロン、あなた、今の状況分かってる? サラが危ないの。あなただって、サラには恩義があるはずよ? サラにもしものことがあったら……」


 そこまで言うと、メロンはエイプリルの手の中でバタバタと暴れ始めた。


「嫌メロ! サラがいなくなったら嫌メロ! メロンと遊んでくれる人がいなくなっちゃうメロ!! メロン、怖いけど行くメロ! サラのこと助けるメロ!!」


 エイプリルは、少し感極まったような表情でメロンを離した。


「……メロン、お願いね! 作戦はさっき話した通り。サラを助けにいくわよ」




 (あたし)は厠に行く……わけがなく、アジトのさらに奥を探っていた。窓のない建物は、ランタンの小さな灯りだけが頼りだ。息を潜めてゆっくりと進むと、扉の奥から呻き声が聞こえる。どうやら、奥には数人の女性冒険者が監禁されているらしい。せめて、彼女たちだけでも命を救わなければならない。(あたし)は懐から工具を取り出すと、鍵穴にそれを差し込んだ。薄暗い廊下にギリギリという音だけが響く。すると――




「何をしている?」


 男の声が聞こえた瞬間、後ろから首を締められる。視界が揺らめいたと思った瞬間、(あたし)の記憶はプツリと途絶えた。


此奴(こいつ)は何者だ? まあいい。スパンキー様に今すぐ報告せねばな」



【つづく】

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