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第7話 カリスマ闇ギルドマスターを成敗せよ!(上)

 夢を見た。


 大きな花束を抱え、手には小箱を持って(オレ)は夜道を急いでいた。(オレ)の家は、小高い丘の上にある。先に帰っている彼女に、今夜はどうしても伝えなきゃいけないことがある――すると、息せき切って坂道を急ぐ(オレ)の目の前に、ひとつの光が向かってくる。その光はゆらゆらと蛇行しながらどんどん(オレ)に迫ってきて、避けようとする(オレ)にとうとう突っ込んできた。


 そこで、夢はいつも終わる。10歳になったとある夜に、(あたし)はこの夢を見て前世の記憶に気づいた。プロポーズを目の前に、前世の(オレ)は死んだのだ。なぜ、(あたし)がこの夢を見たかは分からない。いつも、死を悟った瞬間の衝撃、痛み、悲しみ、悔しさをまとって(あたし)は目覚める。なぜ今も前世の夢を見るのか。前世の記憶が蘇りなどしなければ、(あたし)(オレ)に気づくこともなかったはずなのに――


 (あたし)は窓から覗く月を見て大きくかぶりを振った。




 (あたし)たちは朝から、ギルドマスターのグレンの部屋に集まっていた。大きな椅子がグルリと回ると、ひときわ小柄なグレンの禿頭(ハゲアタマ)がこっちを向く。


「おはよう、諸君」


「「おはよう、グレン」」


 グレンは朝から苦虫を噛み潰したような顔で腕組みしている。


「……どうしたの?」


「これじゃよ」


 そういってグレンは、1枚の紙を置いた。


『カリスマGM(ギルドマスター)のスパンキーがキミを一流の女性冒険者(ハンター)に! かんたん登録で高収入! 今話題の女性専門冒険者ギルド!』


 趣味の悪い求人チラシのごときビラに、(あたし)は思わず頭を抱えた。手にとってまじまじとビラを眺めていたエイプリルが首をひねる。


「グレン、このギルドがどうかしたの? ……まぁ、見るからにフツーのギルドでないことは確かよね」


 グレンは大げさに咳払いをすると口を開いた。


「このスパンキーっちゅうギルドマスターがそのものズバリ黒幕での……こういう甘い言葉で冒険者志望の若い女子(おなご)を呼び寄せて、クエストを紹介すると言っておきながら金を貢がせる、何の変哲もない壺を売りつける、夜な夜なその女子(おなご)たちと酒宴を開くわと……なんとも羨ましい……ゴホン!! なんとも()しからん話じゃよ」


 一瞬グレンの本音が漏れ出た気がしたが、(あたし)はそれを無視して訊ねた。


「それで、結局この人はクエスト紹介してるのかしら」


 グレンは眉間に深々とシワを寄せると、首を横に振った。


「いいや……言葉巧みに散々金を巻き上げ、とうとう一文無しになった頃にクエストと称し――(てい)よく()()する……酷い話じゃ」


「……!!」


 グレンの言葉に、おもわず(あたし)もエイプリルも頭に血が上る。エイプリルは思わず拳をテーブルに叩きつけた。


「なんてヤツなの……卑劣で……愚蒙で……醜悪な男……!!」


 (あたし)も思わず表情が険しくなるのがわかる。グレンは(あたし)たちを見回して静かに口を開いた。


「すでに被害は数十名に及ぶと聞いておる……よいか、サラにエイプリルよ。これ以上被害を広げるわけにはいかぬ……スパンキー一味をひとり残らず成敗してくるのじゃ」


 (あたし)はエイプリルと無言で頷きあった。




 酒場が立ち並ぶ城下町の一角にスパンキーの営むギルド――奴らのアジトはあった。お世辞にも広いとはいえない路地を抜けると、真っ赤な看板を掲げたその建物の前には、ビラを見てやってきた事情を知らない少女たちが列をなしている。(あたし)は小声で溜息をついた。


「何も知らない子たちか……」


 (あたし)の溜息をよそに、エイプリルは最近の若い女性冒険者に流行りというキラキラとした装いに身を包んでニヤニヤと笑っている。


「カワイイ―っ♡ ……最近の若い子はこんな可愛い格好できるなんて、わたし、本格的に冒険者に転職しようかしら♪」


「……エイプリル? ……エイプリル??」




 やがて列は進み、(あたし)たちはギルドに入ってすぐの小部屋に通された。小部屋には黒服の男がふたり立っている。すると、そのひとりが(あたし)たちのところへつかつかと歩いてきて訊ねる。


「すみません、年齢を確認させていただきます。あなたはおいくつですか?」


「えっ? 17です」


「どうぞ」


 そういって(あたし)は奥の部屋へと通される。ふと後ろを振り向くと、黒服がエイプリルをしげしげと見つめて呟いた。


「おいくつですか?」


「なっ……!? ちょっと、あなたエルフに歳を訊ねるなんて失礼じゃない!?」


 実年齢を答えるのをためらうエイプリルに、黒服が追い打ちを掛ける。


「なら、お答えいただかなくても結構です。ですが、当ギルドは人間でいうところの20歳……エルフで言うところの80歳を超える方のご登録はご遠慮いただいておりますので……お引取りください」


 そう言って、黒服たちはエイプリルの両腕をむんずと掴んで外へと連れ出そうとする。


「あっ、ねえちょっともしかして今わたしの年齢見た目で判断した!? まだわたし何も言ってないんですけど!? ちょっと!! ねえアンタたち聞きなさいよっっ!! ちょっとおおっ!!」


 必死に抵抗するエイプリルの声が小さくなり、扉が閉まるとその声は聞こえなくなった。(あたし)は閉じた扉の方を振り向いたが、黒服がその視線に被さるように視界をふさいだ。


(……まずい! エイプリルがいないとなると、ひとりでは分が悪すぎる……!)




 黒服に突き飛ばされるようにしてギルドを出たエイプリルはしばらく機嫌悪そうにしていたが、首を横に3度振ると空に向かって指笛を鳴らした。


 ピイイイィィッ!


 それからほどなくして、空からエイプリル目がけて何かが飛んできた。


「おっつかれメロ! 呼んだメロ?」


 ギルドの目の前で立ち尽くすエイプリルをメロンは不思議そうに見つめたが、エイプリルはすぐにメロに近寄って耳打ちをした。


「今すぐ、時計塔通りのジェイクの本屋まで行って、屋根裏で居候しているアーサーをここまで連れてきて」


「何があったメロ?」


「サラが今、単独でこの闇ギルドに潜入しているの。わたしも潜入しようとしたけど阻まれてしまって……万が一何かあった時にはすぐに踏み込まないといけない……相手は男だらけ10人の集団。サラが危険だわ」


 フワフワと飛び回っていたメロンは、エイプリルの表情を見てことの重大さを悟ったようだった。


「わ、わかったメロ! 今すぐ行って、アーサーを呼んでくるメロ!」




 ギルドの通路は、小さくランタンが灯っているだけで薄暗い。黒服が歩いていく後ろを(あたし)はゆっくりとついていったが、ふと黒服が立ち止まると大きな扉を開けた。


「さぁ、こちらにギルドマスターのスパンキー様がお待ちです。お入りください」


「うっ……!」


 まばゆい、色鮮やかな光に包まれた部屋に(あたし)は思わず目を背けた。この世界では見たことのない――まるでダンスホールのような妖艶な光の真ん中に、黒と金の派手な服に身を包んだ男が満足気にソファーに身を沈めている。その周囲には、若い女性冒険者たちが(はべ)るように座っている。


「スパンキーさまあぁ……♡」


「あぁっスパンキーさまぁ、こっちを向いてくださらないかしらぁ♡」


「ねぇスパンキーさまぁ、こっちいいい♡」


 その光景に(あたし)が思わず怯むと、男は酒の入ったグラスを片手に真っ白な歯をむいて(あたし)に問いかけた。


「やぁ……可愛い冒険者ちゃん。俺の名はスパンキー・ルード。強くて麗しい女性ハンターを育てる指南役(コンサルタント)だ」



【つづく】

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