第6話 黙ると死ぬ魔法剣士の謎を追え!(下)
季節外れの冷たい風が、俺と男――アーサー・アンダーソンとの間に吹く。俺が間合いを測っていると、襲いかかってこない俺に焦れたのか、アーサーは再び叫んだ。
「ええい、じれったい! じれったいぞオォ!! 小娘よ、さっさとかかって来ぬかアアッ! 儂らはかれこれ夕暮れ時から貴様らのことを待っているのだぞオッ!」
(儂ら……?)
何かひっかかりを感じながら、俺はアーサーへ襲いかかった。鉄鞭を振るうと、アーサーは素早くそれをかわし魔法剣を一閃した。
「うっ!!」
既のところで直撃は免れたが、髪の焼ける匂いが鼻腔に広がる。剣に宿っていた炎が、俺に向けて一直線に飛んできた。燃え盛る炎がすぅと収まったかと思いきや、アーサーは剣を高く天に掲げた。
「どうした、怖気づいておるのかアッ! この程度の攻撃で怯むようなら、闇ハンターの討伐隊も大したことないのゥ」
「なに……っ!?」
その直後、海岸にいくつもの雷が降り注ぐ。俺は思わず後ろへと飛び去った。評判通り、下手な魔術師の魔法よりも強力だ。むしろ、ついこの前のクエストで同行したルーファスに負けずとも劣らぬ威力だ。それに、懐に飛び込もうものならあの分厚い両刀剣で骨ごと断たれてしまうだろう。しかも悪いことに、ここは海岸だ。身を隠すものも足場にできるものもない。
(詰んでないか? ……これ)
「サラ……」
手出しを封じられたエイプリルは、離れたところから俺たちの戦いを見守っている。平静を装ったが、内心俺は心臓がドクドクと鳴るのを感じていた。あらゆる可能性を探っていると、再びアーサーが叫んだ。
「いつまで愚図愚図しておるのだアッ!? 貴様の愚図愚図加減で怪鳥の丸焼きが真っ黒焦げになってしまうゾッ!? 早くかかってこぬか!!」
「……さい」
「あん?」
アーサーには聞こえなかったようなので、俺は息を吸い込み、聞き取りやすいように大声ではっきりと叫んだ。
「うるさいって言ってんのよ!! おおおおおぁっ!!」
「何ッ!?」
再び俺はアーサーに鉄鞭を振るうべく突進した。アーサーが再び炎を放つが、俺の姿は3つに分かれた。直撃すると思われた炎は、俺の分身をすりぬけて夜空へと消えてゆく。
「分身の術か! さては貴様、東の大陸の者かッ!?」
俺は無言で首を横に振った。
「この技が東の大陸のものかどうかなんて知らないわ。ただ、仕事柄並の冒険者よりも知識と技量はあるはずよ! ハアッ!」
俺は死角からアーサーに飛びかかった。アーサーはなんとか盾で攻撃を防いだが、俺は一瞬たじろいだ隙にアーサーに向けて円月輪を放った。
「うっ……」
なんとかアーサーは円月輪を払うと、体勢を立て直した。先程まで直立不動だったアーサーは、俺に斬りかかるための戦闘態勢へと変わっている。すると、低い声で俺に問いかける。
「お主、なかなかやるようだな。して、その力を何に使う?」
冷静で、まっすぐな目つきでアーサーは問いかける。俺は答えた。
「この国の平和のためよ」
「何故だ? 金と権力のためにその力を振るう者もおるのだぞ」
「あたしが一人だけ幸せでも空虚でしょ? あたしは、リーマン王国の王女。臣民が幸せになることを願うのはおかしなことじゃないわ。だから、平和を乱す者はあたしが罰する」
「すばらしい理念だ、リーマン国の王女よ。では、その気概を見せてもらおう」
両刀剣が俺に向けて何度も振り下ろされる。魔法剣の威力だけではない。剣術ももはや達人の域のように思える。アーサーの言葉通り、少しでも気を抜けば俺は頭からざっくりと斬り殺されてしまうだろう。次々と振り下ろされる刃をなんとか避けていたが、海岸に転がっている大きな岩につまづき、そのまま倒れ込んでしまった。大きく両刀剣を振りかぶったアーサーと目が合うと、その口元がにやりと歪み、俺に向かって振り下ろされる。
「抜かったな! 王手じゃアアッ!!」
「うっ」
再び炎を宿した両刀剣は空を切って、砂にドシンと振り下ろされた。その先に、俺の姿はない。
「どっ、何処じゃ!」
俺は周囲を見回すアーサーに後ろから飛びかかると、首筋にショートダガーを突き立てた。
「……王手」
アーサーは両刀剣を砂に突き立てると、首を横に2回振った。燃え盛る炎が消えると、真っ赤になった刃が徐々にその明るさを失う。
「じゃ、じゃあ、さっきからずっとピーピー喋ってたのは魔法剣ってこと!?」
俺が驚くと、魔法剣はまたも喚いた。
「ピーピーとは何事かッ!! 我は大魔導士アーバインの英霊なるぞ! ほら小娘、頭が高い! 高いゾッ!!」
両刀剣に宿るアーバインというその大魔導士が大騒ぎするのを尻目に、アーサーは大きくため息をついた。
「ひょんなことからこの刀を手に入れてな……自称の通り、魔法の力は桁外れではあるのだが……いかんせん喧しくてな」
アーサーは呆れたように、アーバインの宿る両刀剣を鞘に納めた。
「おいアーサーよ、儂の話はまだ終わっとらんゾッ!! これからこの小娘に儂の大武勇伝を……フガッ」
鞘に収まると、アーバインは大人しくなるらしい。アーサーは困り果てたようにこぼした。
「こんな調子だから、どこの国のギルドに行っても煙たがられてな……流れ流れておぬしたちの国までやってきたというわけだ」
「な、なるほどね……そ、それで、今後のクエストには協力してもらえるのかしら……?」
俺が戸惑いながら聞くと、アーサーは表情をほんの少しだけ綻ばせた。
「おぬしの真意も確かめられたし、悪くないだろう。わたしは城下町の宿屋に留まっておる。何か任務があれば呼ぶがよい。して、お主の名前は?」
アーサーに問われた俺は、笑顔で頷いて名乗りを上げた。
「ひとつ、人の世涙も枯れた、
ふたつ、不届き闇ハンター。
みっつ、非道なこの世の悪を、
成敗してくれよう仕置人――
あたしの名はサラ・リーマン。リーマン王国王女で、闇ハンター討伐を行う仕置人よ」
【つづく】




