第19話 最終決戦! ダライアス一味を殲滅せよ!(中)
「いいかアーサーよ! お主の心の眼で催眠術師を見るのじゃ! 右へ!」
その声に応じて、斬りかかると魔法剣はデュアンの盾を捉えた。デュアンめがけて次々と振りかざすその姿は、確かに“見えて”いる。デュアンは叫んだ。
「なっ、なぜこちらの姿が見えている!? ハァアッ!」
再びデュアンの両目が光を放つ。しかし、目を隠しているアーサーには催眠はもう効かない。口元に不敵な笑みを浮かべるとアーサーは言い放った。
「最初からこうすべきだったのだ。貴様のあやかしなど私には通用しないと――さぁ、さっきまでの威勢はどうした? この魔法剣の餌食となるか?」
「なっ……!?」
催眠が通じないとなると、もはやデュアンに勝ち目はない。振りかざされる魔法剣を必死に盾でかわしながら、震える声で絞り出す。
「ま、待て、キミたちをダライアス様のところへ行かせる訳には――……!!」
デュアンの声に、目を覆ったままのアーサーがニヤリと口元に笑みを浮かべる。
「それは叶わぬ話だ。『キミはここで死ぬんだね』」
ギィン!!
先程デュアンが放った言葉をそのまま返すと、一閃した魔法剣はデュアンの杖を掃い、勢いでデュアンは倒れこんだ。その喉元に、魔法剣の切先が向けられる。デュアンは小さく震えながら顔を上げた。アーサーは相変わらず目を覆ったまま、ぴくりとも動かずに静かに口を開いた。
「お主を殺める前に、一つ訊きたいことがある――ダライアスなる者に支えしお主の目的は何だ?」
極限に引きつった冷笑を浮かべながら、デュアンは嘯く。
「決まってるじゃないか――権力と財さ。リーマン王国は小国だ。ダライアス様とボクたちならば、リーマン王国など息吹き一つで吹き飛ぶ。そう思っていた……」
「そう思っていた? だが、結果としてどうなったのだ?」
感情を殺して淡々と語るアーサーと対照的に、デュアンは狂い始めた。
「そ、そそそんな、こんな、小兵隊どもに、ボ、ボクががが、滅ぼされるはずがな――!!!」
デュアンは冷や汗をダラダラと流しながら、魔法剣の切先を一点に見つめて震えている。
「それがお主の辞世の句か?」
アーサーはそうつぶやくと、魔法剣を勢いよく振るう。
「ヒイィ」
短い悲鳴を残し、デュアンの身体はその場に斃れ、わずか一瞬の後にぼとり、と鈍い音がアーサーの耳に届いた。
「くっ……!」
エイプリルは流れ落ちる汗を拭った。瞬間移動を繰り返しながら雷撃を放ち、兵士たちは残り数名となったものの、最早エイプリルの魔力は尽きる寸前だ。身体から力が抜けるような感覚を覚え、思わず足元がふらつく。
「そこまでだな、エルフのお嬢さんよ!!」
一瞬の隙をついて、兵士がエイプリルに切り込む。結界を即座に張る余裕もなく、観念したエイプリルは思わず右手をかざした。
ドンッ!! ドンッ!!!
その刹那、エイプリルの呪文よりも更に強力な火柱が眼前の兵士たちを包む。ごうっ、という音を残して、一瞬にして男たちは黒焦げになってその場に崩れ落ちた。振り向きもせず、確信に満ちた表情でエイプリルは口を開いた。
「ずいぶんとやったものね、こんがりと」
その言葉にくい、と口角を上げて笑みを浮かべた。今にもエイプリルに刃が届かんとするその瞬間、間一髪――
「今回の焼き加減は――お気に召したかな?」
ルーファスの放った地獄の息吹が、いつぞやの如く敵を消し炭にしたのだった。エイプリルは震えを抑えながら、ふらふらと立ち上がった。
「さあ、オーラという女兵士を追いましょう。サラが向かっているわ」
俺はオーラと剣を交えながら、洞穴の奥へと進んでいく。重厚な甲冑に身を包みながらも、大柄なツヴァイヘンダーを振り下ろすこのオーラという女は、タダモノではないということだけは嫌というほど感じていた。鉄鞭で応戦するが、間合いに立ち入ることすら難しい。
「王国を打ち滅ぼして、どうしようというの」
その問いにオーラはやはり答えない。
「問答無用です。ここで死にゆくあなたに教えるべきことはありません。ダライアス様の名のもとに、北の大陸を私たちが統べる。それだけの話です」
オーラは狂気的な笑みを浮かべて、俺に剣を向ける。
(この、頑固女――)
思わず心中で毒づきながら、俺は考えていた。ダニング、デュアン、そしてこのオーラ――彼女たちがそれほどまでに心酔するダライアスが、本当にあの衛兵ピーターなのかと……王国ですら一介の衛兵にすぎなかったピーターが、これほどまでに人心を掴み、王国転覆を図るほどの力をつけているのかと……
「隙あり!」
一瞬の不意をつかれ、オーラが再び剣を振り下ろす。その隙に身をかわし、忍ばせていたダガーをオーラの兜めがけて投げつける。ダガーは面頬の部分に直撃し、隠れていたオーラの素顔が明らかになる。
「これは…!!」
思わず俺は呟いた。目鼻立ちのはっきりとした美貌とは裏腹に、兜の奥の瞳は怪しげなピンクの光をたたえている。その光には、ひとつ見覚えがあった。
(魅惑か!)
ギルドマスターのスパンキーを捕らえた時、スパンキーが侍らせていた冒険者の女たちはみなこの怪しげな光を目から発していた。だとするならば――
「ダライアスが、魅惑で兵を操っている……?」
オーラが傀儡の身なのであれば、それを操るダライアスはすぐ側にいる――そう確信した俺は、煙幕を張ってオーラの目を欺くことにした。閃光を発し、オーラの目を晦ます。
「……ぐっ! どこへ行く、サラ・リーマン!」
光に目をやられたオーラは、洞穴に響き渡る声で吠えた。しかし、立ち上がるのが精一杯のオーラは何度も目をぬぐっては辺りを見回す。
「サラ・リーマンなら、もう此処にはおらぬ。相手は私たちだ」
甲冑の兵士の前に、三人と一刀が立ちはだかる。エイプリル、ルーファス、アーサーに魔法剣が、オーラを取り囲んでいた。
「……どこだ……!?」
オーラが鎮座していた玉座の更に奥を探すが、それらしき道は見当たらない。だが、ふと気配を感じ、意識を集中する。道のとある箇所から、風が吹き込んでくるのがわかる。――隠し通路だ!俺は壁を目がけて蹴りを食らわせると、その一角がガラガラと崩れ落ちる。眼前に、細い道が現れた。そして、そのすぐ先でがさ、という物音がする。俺は確信した。薄暗いその先に向かって叫ぶ。
「出て来なさい。ダライアス……いや、ピーター・オーランド!」
ほどなく、ひっひっひっと卑屈な笑いが響き、松明の灯りに男の影が写し出される。
「……どうしたんです、こんなところで……サラお嬢様。いやだなぁ、衛兵の私なんぞに、何の御用ですかい?」
【つづく】




