第18話 最終決戦! ダライアス一味を殲滅せよ!(上)
鋭く光を放つ鎧に身を包んだその剣士はゆっくり立ち上がると、カツカツと音を立てながらこちらへと近づいてくる。俺とエイプリルが息をのんでその様子を見守っていると、剣士はおもむろに兜を脱ぎ、こちらへ呼びかけた。
「よくぞここまでおいでくださいました。サラ・リーマン王女」
その声、顔立ちに俺たちは思わずハッとした。――女だ! その顔立ちは麗しく、声は広間によく響き渡る。分厚い甲冑からは想像もできず、一瞬言葉を失うが俺は慌てて彼――いや、彼女に問いかけた。
「あなた……ダライアスね?」
そう問うと、女は頭を振った。
「ダライアス様はこの場にはおりません。私の名はオーラ……オーラ・スミス。ダライアス様の名のもとに、あなたがたリーマン王国の敵勢を打ち滅ぼすことが今の私に課せられた使命。すなわち、あなたがたはダライアス様のお姿を目にすることなく、この場で命を散らすことになるでしょう」
オーラは薄らと笑みをたたえながら、淡々と語りかける。周囲を取り囲むように、十数人の兵士たちが静かに剣を構える。俺はオーラに再び問う。
「あなたたちは、なぜ執拗にリーマン王国を狙っているの? 国家の転覆? それとも――宝? 一体何が目的?」
オーラはその表情を変えることなく口を開いた。
「これから死にゆくあなたがたにお聞かせすることはありません。ですが……」
そこまで言うと、鞘から剣を抜いてスッと構える。兵士たちも同様に、一斉にこちらを向き直り広間に緊張が走った。オーラは俺たちを一瞥すると叫んだ。
「特別に教えて差し上げましょう。北の大陸を統べるのは小国のリーマン王国ではなく、この私たちです。そして今日この日こそが、リーマン王国が破滅へと向かうその第一歩――さぁサラ・リーマン、その命をダライアス様に捧げなさい」
俺は自信満々のオーラのその顔を見つめながら、心のうちで反芻する。
(言ってくれるじゃない、でも)
傍らのエイプリルと目が合い、頷き合うと俺は静かに息を吐き、つぶやいた。
「この国は奪わせない……どんな小さな国だろうと、どんなに弱い国だろうと……」
俺を取り囲む兵士たちがじり、と迫る。一瞬の静寂のうち、俺とオーラが同時に叫び、戦は始まった。
「滅びなさい、リーマン王国よ!」
「リーマン王国は、俺が護ってみせる!」
その叫び声を合図に、兵士たちが俺とエイプリルに向かって攻め込んでくる――!
アーサーは、デュアンを前に膝をついて一点を見つめていた。デュアンは口角をくい、と釣り上げて冷たい笑みを浮かべた。
「どう足掻いても無駄だよ。キミは僕の餌食になる。これ以上は時間の無駄だ――どうやって死ぬのがお好みかい? さっきのように首を締め上げてもいいし、キミのその剣で心臓を突いてあげてもいい」
饒舌になるデュアンの話を、アーサーはろくすっぽ聞いてなどいなかった。デュアンに聞こえないよう小声で魔法剣とぼそぼそと会話を続けている。
「アーバインよ、私に一つ考えがある――どうだ?」
「ぬっ!? ……不可能ではないが、アーサーよ、それはお主にあまりにも不利では――」
アーサーは苦々しい表情でちらりと魔法剣を見ると、ひとつため息をついた。
「本当なら避けたいが、だが仕方がない。お主を信頼しているからこその選択なのだ。……どうにか頼むぞ」
魔法剣は悩んだ末に、致し方ないとアーサーにつぶやいた。
「仕方がないが、承知した……儂らは一蓮托生の身。心頭を滅却すれば道は開かれん――準備はよいか?」
「……ああ」
アーサーはそういうと、腕に巻いていた布を解いた。その様子を見ていたデュアンが訝しげに問う。
「さっきから何をぶつぶつと……? ……ふゥん、どうやらとうとう気でも違えたのかな?」
戦いが始まった瞬間、後方から気を受けたのがわかる。それと同時に、俺の身体はまるで重みがなくなったかのように軽くなり、力を帯びる。エイプリルが、俺に向けて疾風の魔法を放ったのだ。
「サラ、頼んだわよ!」
エイプリルの声に頷くと、俺はダン、と力強く地面を蹴った。眼前に迫る十余名の兵士たちを軽々と飛び越え、着地した目の前にはオーラが待っている。
「「テメェ!!」」
頭上を越された兵士たちが気色ばむ。すると、怒り、俺に詰め寄ろうとする兵士たちの目の前には雷が数発落ちる。
ドォン!!!
「ヒーラーだからといって甘く見てもらっては困るわね、雑兵さんたち♡ アンタ達の相手は私よ」
そう言って手招きし、エイプリルは兵士たちを挑発する。兵士たちに比べて見るからに華奢なその姿に男たちが襲い掛かろうとすると、一人の兵士が振りかざした剣は大きく空を切った。その刹那、
「どこを見てるのかしら!?」
エイプリルは男たちの後ろにいた。すぐさま兵士が振り向くとたちどころにその姿は消え、エイプリルは高速移動を繰り返す。徐々に兵士たちが焦りはじめる一方、エイプリルは眉間にしわを寄せて苦い表情を浮かべた。
(時間稼ぎも、いつまで持つかしら……アーサーか、ルーファスが来るまでにはなんとか……!)
「さぁ、そこの催眠術師よ。ここで死ぬのはお主だ。この勝負は私がいただく」
「はぁ!? 自分の首を締めて気でも狂ったのかい?」
デュアンは理解できない、といった顔でアーサーを睨んだ。アーサーは己の目を塞ぐように、装束の袖を引きちぎった長い布で両目を覆って静かに立っている。デュアンは失笑交じりに吐き捨てた。
「まぁ、キミがどうあろうとボクの知ったことじゃない。さぁ、始めよう。キミも勝利を確信しているというのなら、ここがボクたちどちらかの死に場所だ。さぁ、おいで。手も触れずにキミのことを殺してあげよう」
そういうと、再びデュアンの両目が妖しく光る。魔法剣が叫んだ。
「さぁ、催眠術師はお主の真正面におるゾイ! 気を鎮めて……行くのじゃ!」
「承知! はあああああっ!」
そう言うと、目を隠したままアーサーはデュアンに向かって斬りかかった!
「な、なんだと!?」
【つづく】




