第17話 サラ追放!? ダライアス三剣士を捜せ!(下)
ルーファスの余裕めいた一言に、ダニングは眉毛をひくつかせた。
「何をォ!? 強がりはその程度にしておくんだな! 鉄壁の防御と強力な攻撃を持つ俺様の前に……貴様の勝ち目はない」
その言葉に顔色一つ変えることなく――いや、その笑みを浮かべた口元がくい、と引きつったようにも見える。ダニングは攻防一体の体勢を保ったまま、ルーファスの出方を見定めていた。対するルーファスは微動だにしない。とうとう、焦れたダニングは叫んだ。
「貴様が来ないというのなら、こちらから行くぞ! ハアアアアッ……」
ルーファスは、目を細めてサッと身構える。
「強がっちゃって……大丈夫なのかい?」
ダニングよりは、随分若いだろうか。デュアンが訊くと、静かにアーサーが口を開く。のはずが、
「問題な――」
「問題ないに決まっとるじゃろうがあアァァ! 儂を誰と心得る!? 名剣にその魂を宿す、大魔道士アーバイン様なるぞおオオオッ!! うぬ如きの若造なぞ、儂らの相手ではないッ! グワハハハッハ!」
そうそうに退場する噛ませ犬のごとき勢いで、魔法剣は吠えた。アーサーはじろりと魔法剣を睨みつけると、呆れたようにつぶやいた。
「アーバイン、おぬしの実力は私がようく分かっている。時間がないのだ。さっさとあの男を倒して、サラ達を追うぞ」
握りしめるその手に力が籠もるのを感じると、さすがの魔法剣も察したのか、大仰に咳払いをするとアーサーに応える。
「おお、そうじゃの、彼奴らを早う追いかけねばの……行くか?」
アーサーは小さくうなずくと、一気にデュアンとの間合いを詰めた。
「私は自らの国を捨てた身……だが、誰にでも守るべき、素晴らしき故郷があるものだ。その安寧を乱す輩は看過できんな! ハアッ!」
アーサーは、魔法剣を掲げるとその刀身には炎が宿る。早足で近づいてくるアーサー達を冷たく一瞥したデュアンは、腕組みをしたまま苦笑いを浮かべた。その姿は、今にも斬りかかってくる剣士を目の前にしては異常なほどに冷静だ。
「偉そうなこと言ってくれちゃってさ……お説教を聞く耳は持ってないな。だけど、ひとつだけ確実なことがある。キミは絶対にボクには勝てない――ここで死ぬんだね」
そういうと、再びその目が緑色に光る。その刹那、アーサーはその場にドサッと崩れる。
「ど、どうしたのじゃ!?」
放り出された魔法剣が慌てて尋ねる。しかし、アーサーからはうめき声しか聞こえてこない。
「あ……ぐぅ、クソ、身体が……」
すると、その場に倒れ込んでいたアーサーは立ち上がり、自らの首を両手で掴んだ。
「……!?」
「どうしたのじゃ!?」
アーサーは、声にならない叫びを上げる。首を締め上げる力は更に強くなり、顔は紅潮し、目は血走っている。その遥か向こうでは、妖しい光を目から放ったままのデュアンがうっすらと笑みを湛えている。
「覚悟ォ……!?」
そう叫んで斬りかかろうとしたダニングは、その場で動こうとしない。それどころか、襲いかかろうとした体勢のまま固まり、顔色はどんどん青ざめてゆく。
「貴様……一体何を?」
ルーファスは小さく鼻で笑うと、ダニングを見下ろした。
「言っただろう?強火で料理するばかりが定石ではないと。ちょっとばかり、足元からキミの身体を凍らせてもらっただけさ」
「ナニ……ッ!!」
ダニングは必死に自らの足の感覚を探った。ルーファスとの間合いに気を取られていて気づかなかったが、すでに膝下まで感覚が失われているようにも思われた。その冷たい感覚は、徐々に上半身にも立ち上ろうとしている。
「きさ……ま、鉄壁の守備の俺様の……!?」
ルーファスはどこが、と言わんばかりに皮肉たっぷりな笑顔を浮かべた。
「足元はガラ空きだったじゃないか? キミの身体じゅうの血はまもなく凍りつく。さしずめ、真冬の北の海に真裸で乗り出すようなものだ――」
「な……ん?」
「攻守すべてに完璧であることなどありえない――少なくとも一分の隙があるものだ。少なくとも、完璧と断言するには私の魔法の前には不十分だったようだ」
「きさ……マ……ウオオオオオオッ」
薄れゆく意識の中で、ダニングは手に持った斧をルーファス目掛けて投げつけようとしたようだ。しかし、斧は力なく足元に落ち、その自慢の盾とともにその場へと倒れ込んだ。ルーファスはゆっくりとその横を通り過ぎると、語りかけるようにつぶやいた。
「冥土の土産に覚えておくといい。私の名はルーファス・エインズワース――この北の大陸いちの魔術師だ……もっとも、キミは間もなく全身の血が凍りついて、意識を失うだろうだがね」
「うっ、がっ、が、貴様……」
アーサーは、自ら首を締め上げるようにして立ち尽くしている。目は真っ赤に充血して、今にも気絶してしまいそうだ。すると、デュアンの両目から放たれていた妖しい光が消え、アーサーはその場に倒れ込んだ。
「ゲホッ、ゲホッ、ゴホッ、ううっ」
「どうしたというのじゃ、一体!?」
アーサーは、デュアンを睨みつけてボソリと呟いた。
「分からぬ……ただ、気づいたときには己の首を締め上げていた……あれは魔法ではない……のだとすると」
アーサーが首をひねると、魔法剣がふと思い出したように声を発した。
「のう、アーサー……あれは魔術ではない、催眠じゃ! 彼奴の目を見てはいかん! 彼奴はお主の心を支配して、自ら死に向かうように仕向けることができるのじゃ」
「催眠だと……? しかし、奴と目を合わせてはならないとなると、如何にして……」
俺とエイプリルは、デュアンのいた場所から更に奥へと進んでゆく。だが、道はずっと長く地下へと続いており、終わりが見えないようだ。すると、突然目の前が開けた。
「これは……!!」
俺は、エイプリル共々息を飲んだ。洞穴は縦に長い広間のような場所につながっていて、やはり武装した十数人の戦士たちが待ち構えている。赤い絨毯の敷かれたその先には、きらびやかで大きな椅子が設えられていて、鎧を着た男が鎮座している。俺は、確信を持ったようにエイプリルとうなずいて、一言つぶやいた。
「あの男こそが、ダライアス……?」
【つづく】




