第15話 サラ追放!? ダライアス三剣士を捜せ!(上)
「まったく、サラのやつ、何を考えているのだ?」
アーサーは理解できない、といった様子で頭上を見上げた。城下町の大通りを曲がり、少し奥まった所にある建物の入り口には蒼く染め上げられた旗がなびいている。その傍らには、やはりいつぞやのクエストで同行したルーファスの姿がある。アーサーと面識のないルーファスは、頭をかきむしりながら手にした羊皮紙に何やら書き殴っている。
ギィ……
建物の扉を開けて現れた俺を、アーサーとルーファスは驚いたような表情で見つめた。
「お待たせ」
「お、おぬしは一体ここで何を?」
「そうだ、キミは王宮の人間だろう。場末のギルドに用はあるまい……」
心底不思議そうに見つめる二人に、俺は真新しい冒険者カードを差し出した。
「冒険者登録してきたの」
「「どっ、どういうことだ!?」」
お互い見ず知らずのアーサーとルーファスが、声を揃えて絶叫した。ここは、王国の中でも新進気鋭のギルドとして知られる『青き翼』だ。呆気に取られる二人に、俺は懐から取り出したもう1枚のカード――国営ギルドの身分証を取り出すと、それをビリビリに破いて捨てた。
「!!?」
呆然とするアーサーたちに、俺は静かにつぶやいた。
「追放されたの。王宮を」
数日前に見た夢――いや、俺が俺に生まれ変わる時の記憶が突如として蘇り、その様子を俺は辿っていた。前世で死に、その記憶が消えようとするその瞬間に、語りかけてきた声の存在を。
「もう、戻れないのか……?」
『叶わぬ。おまえたち人間には天命というものがある。おまえの天命は尽きたのだ……もっとも、本来ならばおまえはどうやらもっと生き長らえるはずだったようじゃがな』
「なんだよ……、理不尽すぎるな」
俺は憎々しげにその声の方を向いて不満を漏らした。だが、身動きも取れず、意識も徐々に遠のいていくのがわかる。声が再び脳裏に響く。
『仕方があるまい。神とて一人ひとりの運命なぞ操ることはできん』
「神……!?」
『ならば、せめて願いぐらいは聞いてやろう。次はどんな人生を望む? ……覚えていたらの話じゃがな、できる限りは叶えてやろうぞ』
今となっては死ぬ間際の幻想だったかもしれないが、こうして思い出せるということは、確実に誰かと会話を交わしたのだろう。
消えゆく意識の中で俺は、早口でまくしたてた。
「なっ、ならせめて次の人生ぐらい俺が思うように生きたい! 誰の指図も受けず、俺の意思で切り開き、……そしていつか、遺してきた大事な人とまた巡り合うッ……!」
意識がボンヤリと遠のく中で、声は言った。
『覚えていたら叶えてやろう――次の人生でな』
「フン、気まぐれな神だな……!」
そう悪態をついたところで、俺の記憶は途切れている。
「おい、つ、追放とはどういうことだ!?」
冷静なアーサーが思わず混乱する程度には、”追放”という言葉はショッキングだったようだ。俺はため息をついた。
「追放……というより、自分で出てきたの。ダライアスたちの狙いがあたしにある以上、王宮に留まるのは国を危険に晒すようなものだしね」
「しかし、わざわざ安定された身分を捨てるようなことなぞ……」
ルーファスの言葉に、俺は首を振った。
「あたしは側室の娘。このまま狭い王国の中で暮らしても、女王にはならない……どうせなら、自分の思いのままに生きたい。母さんは、今の暮らしのまま過ごすことができるというし。それに――」
俺の後ろ、『青き翼』の扉を開けて出てきた人影がにこやかに言う。
「わたしも一緒よ」
「おお、キミはいつぞやの……」
エイプリルも、俺と共に王国を出る決意を固め、真新しい冒険者カードを誇らしげにかざした。
「わたしにしろサラにしろ、冒険者として登録するのは初めてだから、レベルは1だけどね……グレンに頼んで色々手配してもらったの」
俺も改めて、胸の冒険者カードをまじまじと見つめた。レベルは1だが、グレンが根回ししてくれたお陰でランクはA++になっている。グレンの顔が脳裏をよぎり、俺は思わず笑みがこぼれた。
「急ごしらえにしては、王国随一の魔術師に剣士、ヒーラー、顔ぶれは悪くないな。して、サラおぬしの職は何なのだ? ……さすがに仕置人ではなかろう?」
アーサーが珍しくジョークを飛ばした。俺は、胸元に提げたカードを見せて苦笑いを浮かべる。
「戦士でもシノビでもなく、武器の手持ちが多いから武器商人ですって……そんなことより」
俺は、先程書かれたばかりのクエスト依頼書を広げた。
「ダライアスの居場所が分かったの」
王国から北へ半日ほど馬を走らせた広大な樹海のさらに奥に、ダライアスたちが根城にする”要塞”はあるという。馬を降り、僅かな目印を頼りに俺たちは樹海を進んでゆくと、急に森が開けた。
「ここは……!?」
俺たちがそのおよそ中心で立ち止まると、四方から弓矢が飛んでくる!
「危ない!」
エイプリルが即座に張った結界に阻まれ、弓矢がバラバラと地面に落ちる。数十人ほどいるだろうか、無数の射手たちが再び俺たちに向けて構えると、奥から嗄れた声が響いた。
「止め!」
奥から、身体をすっぽり隠すほどの大きな盾と斧を担いだ侵略者がやって来る。
「王女がこんな所まで来るたぁ、お暇なこって。のこのこ殺されにきたか?」
男は長い髪を後ろに撫で付けると、そのギョロっとした目で俺たちを睨みつける。尚も男は続ける。
「俺の名はダニング。ダライアス三剣士のひとり――どうする? お前ら全員この場で片付けても構わねぇが、どうする? 先に進んだからといってどうせ残りの二人に殺られるのがオチだと思うがな」
舐められたものだ――俺が苦い顔をしていると、ルーファスが不意に口を開いた。
「キミたちは先に行くといい」
「……大丈夫なの?」
俺が訊くと、心外そうな顔をしてルーファスは大仰にため息をついた。
「射手がざっと2、30人に侵略者が一人だろう? 決して油断ではない。ものの数分だ。すぐ追いつくからキミたちは先に行くがいい」
ルーファスの言葉は、決して虚仮威しなどではない。一瞬でヘルハウンドたちを消し炭にした男だ。ルーファスにこの場を任せることにして俺たちが走り出すと、射手たちが再び一斉に矢を向ける。
「止め!!」
再び、ダニングが叫ぶ。
「お前らのターゲットはこの男だ! ダニング様も舐められたモンだ。こんなガリガリの貧弱な野郎一人に俺たちが倒されるわけが――」
「喧しい」
ドスの効いた声でルーファスが口を開いた。
「あぁん?」
「喧しいと言っているだろう? 丸焦げにならないと馬鹿が身に沁みないようだな?」
「ンだとォ!?」
挑発に逆上するダニングに、ルーファスが冷たい視線を向ける。
「次に瞬きをした瞬間にこの雑兵共は真黒焦げだ。キミは強火で丸焼きにされるのと、雷に打たれるのとどちらがお好みだ? 答えなければ私の好きにさせてもらう」
「ぐっ……貴様ら、今すぐこいつを殺ってしまえ!! 瞬殺だ!」
尚も挑発的な言葉を投げかけるルーファスに向かってダニングが怒鳴り返すと、ルーファスがパチン、と指を鳴らす。
ドオオォン!!!
周囲に幾筋もの閃光が走り、轟音とともに木々が一瞬にして炎に包まれる。燃え盛る木からは、閃光の餌食になった射手たちが、黒い塊となって次々と地面に落ちてゆく。
【つづく】




