第13話 王女殺害予告!魔法剣で殺し屋を討て!(上)
朝から城内はただならぬ空気に包まれていた。王宮をせわしなく従者たちが行き交い、リーマン国王たちも落ち着かない様子でそわそわしている。理由は一つだ。
『明日の正午、王女ローレンシア・リーマンの命を奪う』
これまで何度も隣国との戦争が起こったりということはあった。しかし、特定の王族を狙っての脅迫は初めてのことだった。ローレンシアというのは、父と正室である王妃ベルタの間に生まれた3姉妹の末っ子で、俺と同い年の王女だ。
「しかし、どうしてまた、ローレンシア姫を狙うなどと……」
王宮にやってきたグレンが首を傾げた。自警団を率い、いずれ王位を継ぐと言われている長女のパトリシア、その美貌で他国の王子から引く手あまたの次女ナタ―シアなら話は分かるが――と言いたいのだろう。ローレンシアは病弱で、武力や美貌で耳目を集めているというわけでは決してない。小声でブツブツと考え事をしているグレンに俺は問いかけた。
「今はそんなことを考えてる暇はないわ。とにかく、絶対にローレンシアを護らないといけないわ」
俺が言うと、その様子を見ていた父が俺を呼ぶ。
「はい、父上」
「サラ、申し訳ないがローレンシアを頼む……パトリシアはあのざまだ。今頼りになるのはサラ、お前しかおらん」
あのざま、というのは、殺害予告を受けて姉は珍しく迅速に動いた。ところが、姉はどういうわけか、城の目前に広がる大通りに自警団員たちを待機させ、当の本人も優雅にその場で座って敵の襲来を待っているという。
「お姉様は敵も正々堂々と正面から襲ってくると断言して憚らないですから……殺害予告を寄越すような輩が仁義を通すはずがありません」
俺が言うと、父はうんうんと幾度も頷いた。
「頼んだぞ、サラ。ローレンシアを救えるのはお前しかおら……」
俺は父の言葉を遮った。
「承知いたしましたわ、お父様。けれどお父様、ひとつ教えてくださるかしら。お姉様は仕方ないにしても、どうしてあたしはいつも危険に晒され続けなければいけないのかしら?」
「サラ、それはお前がハンターを成敗する仕事……」
「それはあたしが心から望んだことではなくてよ、お父様。それはわたしが側室の子だからと言うことかしら? あたしは護られる立場ではないということなのかしら」
「サラ、今はそんな事を言い争っている時間はないのだ……今はまずローレンシアを……」
俺は父を睨みつけた。
「分かりましたわ、お父様。ローレンシアの事は必ず守ります――ですが、」
俺の口ごたえに不服そうな父に俺は言い放つ。
「この件が終わったら、ゆーっくりお時間くださるかしら、お父様」
そう言って俺は振り向かずに王宮を出たが、さぞかし父は膨れっ面だったに違いない。
「これでよし、と」
ローレンシアの部屋には、俺とアーサーのふたりがいる。ローレンシアは侍女の服装に着替えさせ、敵がノーマークであろう侍女たちの過ごす小部屋へと匿われた。兵士たちもすぐ横の部屋へと配備された。少なくとも、ローレンシアをこの居室にそのままいさせるよりは多少なりとも安全だろう。
「して、作戦はどうする」
着慣れない衛兵の制服に、アーサーは襟元を引っ張りながら苦い顔でつぶやく。俺は廊下を指差すと言った。今の所、異変らしき兆候は見られない。
「敵はこの部屋に乗り込んでくるはず……真っ先に、この部屋にいるはずのあたしを狙って来る。敵があたしを襲うその瞬間に仕留めましょ」
アーサーは首を捻った。
「ぬう……この部屋に入ってくるまでもなく仕留められないものか?わたしとアーバインなら、そう難しいことではないはずだと思うのだがな」
「甘いわね」
「甘い?」
年下であろう俺に甘い、と言われたアーサーは露骨に不服そうな顔をした。だが、そうコトがうまく進むわけがない。
「それは、アーバインを構えておければの話でしょ? ただでさえうるさいアーバインが黙って待ち構えられると思う? 敵にこっちの目論見がバレて作戦がパーよ」
「うむ……確かに」
アーサーはうなだれた。アーバインの癇に障ったのか、アーサーが腰に差している鞘がブルブルと震えている。俺はそれを無視して続けた。
「さぁ、そろそろ敵がやってくるわ。作戦通りよろしくね」
アーサーは、小さく頷くと部屋を出ていった。
もう間もなく日が真上に昇る時間のはずなのに、城内には不気味な静寂が流れていた。どうやら、大仰に自警団を引き連れて優雅に敵を待っていた姉も、敵の気配がしないとみるやさっさと城内に引き上げたらしい。衛兵がその報告に訪れてしばらく経つが、殺害予告とは何だったのだろうか、一切そのような気配がない。俺が外に待つアーサーの様子を伺おうと、腰を上げたその時だ。
「うわああぁっ……!!」
階下から、先程の衛兵の叫び声が聞こえる。それから寸分の余白もなく、鎧を纏った者がこの部屋へと駆け寄ってくる物音が大きくなる。アーサーは敵にやられたと見せかけ、すぐ後を追って部屋に入ってくるという算段だ。
バンッ!!
扉が蹴破られる。部屋の真ん中にあるソファーに腰掛ける俺に向かい、その鎧を纏った兵士は一直線に駆け寄ってくると、大振りな剣を振り下ろした。
「ローレンシア王女、お命頂戴! ハアアアッ!!」
ダンッ!
振り下ろされたその剣は、ソファーにグッとめり込む。その兵士は周りを見渡したが、その隙に俺はその男の背中にショートソードを突きつけた。
「残念ね。ローレンシアならここにはいないわ。ここで命を落とすのはアンタ――」
そこまで言いかけると、兵士は突然振り向き、その太い足で俺を蹴り飛ばした。
「ウワッ!!」
「何奴だ!?」
異変に気づいたアーサーも、即座にアーバインを抜いて部屋へと入ってくる。不意討ちに吹っ飛ばされた俺がなんとか立ち上がると、その兵士は重い装備を脱ぎ捨てる。
「……フン!」
兵士――男は不機嫌そうに真っ二つになったソファーを蹴り上げた。俺とアーサーを交互に睨みつけると、口元にニヒルな笑みを浮かべて口を開く。
「まんまと引っかかってくれたな、仕置人さんよ。そもそもの標的はローレンシアなんかじゃねぇ。今日この場でただの肉片になってくたばるのは、サラ・リーマン、貴様だ。ダライアス様の名にかけて貴様を殺す」
「ダライアスだと……!?」
アーサーが表情を険しくする。男はサーベルの切っ先を俺に向けたまま、ケケケケケと気味の悪い笑い声を上げる。俺は、つい数日前に父と交わした、ダライアスなる男についての話を思い出していた。
【つづく】




