第1話 ハンター狩りの偽クエストを追え!(上)
はじめまして、あんじょうなほみです。
異世界転生&TSの長編を始めることになりました。
TS転生した王女が、悪のハンターを討伐する痛快アクションです。
どうぞ、よろしくお願いいたします!
残念ながら、どんな人生でも悪い奴というのは存在するらしい。自らの欲望や名誉、力のために生き、幸せに生きる者の富や生活、その愛する人をも奪おうとする者は、決して絶えることはないようだ。
城からしばらく馬を走らせた、人里離れた山奥にその小屋はあった。勘づかれないように、木陰に身を潜めてしばらくその様子を伺う。小屋の中からは、男たちの酒宴とおぼしき大きな声が漏れ聞こえてくる。
「ガッハッハ、レベル1の冒険者なんてチョロいもんよ! 洞窟までノコノコと現れたのはいいけどよ、所詮初心者同然、後ろから奇襲されたら何のことはねぇ、一発で気ィ失っちまいやがったゼ?」
「高額報酬をぶら下げるだけでこれだけアホが押し寄せるとはな……それで? 今日のアガリは?」
細身の男が、奥で金勘定をしていた小柄で中年のドワーフに訊ねる。ドワーフは髭で毛むくじゃらの顔を不格好に歪め、気味の悪い笑みを浮かべると手元の金を握りしめた。
「ボス、今日もこれだけの儲けがありましたよ! こりゃ、明日からもとてもじゃねえけど止められねぇや! ヒヘハハハハ!」
男たちの下世話な笑い声が山間に響く。コイツらは、本来はクエストでモンスター討伐に向かうハンターたちに偽のクエストを持ちかけ、指定された洞窟へとやってきた冒険者たちを襲って金品を巻き上げる、俗に言う「闇ハンター」と呼ばれる者たちだ。レベル1などの初心者に法外な金額のクエストを持ちかけては騙し打ちにするという「ハンター狩り」と呼ばれる手口で、その被害が後を絶たない。
「小屋の中には3人。主犯格と思われる男がひとり、実行犯がふたり。酒宴を開いているようで、丸腰ではありますが実行犯は屈強な体格の持ち主です。…ですが」
中の様子を小屋の影から窺っていた密偵のリーヴァイが、小声でささやく。男たちは強い酒をグビグビと酌み交わしていて、そう遠くないうちに眠りこけてしまうだろう。リーヴァイは続けた。
「奴らは小屋の中に真っ赤な鳥を飼っています…踏み込んだ時に、あの鳥が騒いで奴らがすぐに気づいて逃げ出すか、もしくは…反撃される可能性があります。油断はできません」
小柄なリーヴァイは目を見開いて小屋の中を眺めると、苦々しい表情を浮かべた。こちらは、リーヴァイの他には3人だ。魔法の鍛錬もそこそこに肉体を鍛え上げ続ける僧侶に、怒らせると怖い攻撃呪文を得意とするヒーラー、――そして俺だ。デコボコな4人だが、それなりに修羅場もくぐってきている。俺は、ヒーラーのエイプリルに声を掛けると、エイプリルは事も無げにのたまった。
「じゃあ、私が最初にあの赤いのを焼き鳥にしてしまえばいいということね」
「エイプリル、言い方」
「あらいけない、私としたことがお下品な言葉を。そうでしょ、テレンス、リーヴァイ。ま、焼き鳥は趣味じゃないからとりあえず凍らせちゃおうかしら」
エイプリルに呼ばれ、僧侶とは名ばかりのマッチョな坊主、ことテレンスが顔を上げた。嫌がるリーヴァイの肩に腕を回すと、テレンスは俺の方を向いた。
「その通り。俺とリーヴァイが実行犯を締め上げる。その間にサラ、お前は主犯のあの男のことを頼む」
「えーっ、女子に主犯格の始末を任せるとかひどくない? まったく人使いの荒い僧侶よね」
「そう言うなって。お前の腕が確かなのを認めてるからこそ言ってるんだ、悪く思うなよ。な、仕事人さん」
俺は反抗の意味も込めて頬を膨らませたが、この後暴れまわることを楽しみにしているのか、テレンスは全く意に介さないようだった。俺はひとつ大きく深呼吸をすると、3人の顔を見回して言った。
「いいわ、そろそろ行きましょ。それじゃ……任務の成功を祈る」
男たちが酒宴を始めてから、相当の時間が経った。ところが、酒に強いのか、3人は一向に眠りにつく気配がない。ここでこの男たちを始末しなければ、やがて行方を眩ませてしまうかもしれない。すると、物陰に潜んでいたエイプリルがすっくと立ち上がり、小屋に向かって杖を突き出した。
「……!?」
季節外れの凍気が、山小屋に向かって放たれる。吹雪のような猛烈な凍気に、籠の中の鳥は目を回して倒れ、小屋の中の灯りがふっと消える。
「なんだ、えっ、どうしたってンだ!?」
俺たちはすぐに小屋の中へと飛び込むと、狼狽える大男の首筋にテレンスが手刀を見舞い、リーヴァイがドワーフに毒矢を放つ。俺は、首謀者の男の背後にサッと回ると、すぐに男の両腕を後ろ手に縛り付けた。
「なんだ、貴様らは!!」
主犯格がヒステリックに叫ぶ。俺は男を睨みつけて言い放った。
「名乗るまでもないわ……シュミットの南の洞窟で、モンスターに捕らえられた母親の救出と偽って、クエストに応じた冒険者を呼びつけて暴行。これまでに13人の冒険者たちに暴行し、金品を奪ったのはあんたたちって分かっているの」
「フン、分かったから何だってんだ? モンスターは殺せても、冒険者は殺せないっつう協定があるはずだ。一体貴様らは誰だ!? 名乗ってみやがれ!」
俺は騒ぐ主犯格を蹴飛ばした。大袈裟に転がった男は、壁に身体を打ち付けて呻いている。エイプリルから松明を受け取ると、俺は静かに口を開いた。
「そこまで知りたいなら教えてあげる。
ひとつ、人の世涙も枯れた、
ふたつ、不届き闇ハンター。
みっつ、非道なこの世の悪を、
成敗してくれよう仕置人――
あたしの名はサラ。あんたたちのような闇ハンターを始末するために存在する『仕置人』よ」
【つづく】
第1話、ご覧いただきありがとうございました!
これからのサラちゃんたちの活躍をお楽しみに♪
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