65
ファーストシティで温泉の場所を調べた。
ファーストシティから、南に行ったところにあるようだ。
グリーン温泉という名前らしい。
草原の真ん中にある温泉のようだ。
「温泉って火山の近くとかにあるイメージがあったけど、アウターのは違うかのかな?」
ブロズが疑問を口にした。
そういえば、俺の国の温泉も火山がある場所の近くにあったような。
正直、あまり興味がなかったから、知らないけど。
「まあ、アウターなんだし、元の世界の温泉とはだいぶ違うんじゃないの?」
ルナがそう答えた。
行ってみれば多分わかるだろう。
俺たちはグリーン温泉に向かう。
しばらく歩き続けると到着した。
グリーン温泉と書かれた看板を入り口につけている建物が、草原のど真ん中にあった。
グリーンワールドらしく、木造の建物だ。普通の家よりかなり大きい。
建物の中央から湯気が出ているのがわかる。温泉があるのだろう。
俺たちは建物の中に入る。
受付の人がいて、温泉に入りに来たというと、入浴料を教えてくれた。
一人5ルバのようだ。
思っていたより安かった。
これなら全然痛い出費じゃない。
男湯と女湯が分かれているので、俺たちは分かれて入った。
「俺、温泉って初めてだなぁ」
ブロズがそう言いながら服を脱ぐ。
ガタイがいいのは知っていたが、やっぱすごい筋肉である。
俺ももうちょっと鍛えないとな。
しかし、ルイが気になるな。
ルイと会ってから、ルナがいない状態で一緒になったことはない。
ルイは、全く喋らないタイプであるので、どんなやつかもほとんどわからない。
仲間として親交を深めるべきだとは思うが、喋ってくれないんじゃ、深めようもないからな。
こうして考えている間も、ルイは俺の方を見たりはしない。
あまりに他人に関心がないタイプなのかもしれない。
ルナと二人では、レッドエリアに入ることができないから、仕方なくほかの冒険者とも連んでいるのだろうか。
それならそれで、無理に話しかけなくてもいい気はするが。
戦いでの連携は割と取れていた。ルイは会話はしないが、人の動きに合わせたりするのは、結構上手だ。
ただ、それでもこれから一緒にアウターを冒険すると言うのなら、仲良くしていた方がいいしな。
俺は悩みながら服を脱ぎ、脱衣所を出た。
温泉は外にあった。
木で囲ってあるので、覗かれる心配はないが、外で裸になるというのは妙な気分だ。
俺たち以外の冒険者は数名だけいある。
安いし、もっといてもおかしくないと思ったが、何故だろうか。
ファーストシティからそれなりに離れた場所にあるし、わざわざ入りにくる冒険者は少ないのか?
俺は湯に浸かってみる。
湯の温度はちょうど良く、入り心地は非常に良かった。ただのお湯に入るのとは、何か違う感じがする。
全身がリラックスして、とにかく癒されるという感覚だ。
これが温泉にある効果なのだろうか。
「気持ちいいねー」
「ああ」
ブロズが言ったので俺は同意した。
ルイも目を細めて、心地良さそうにしている。
「ルイ君はどう?」
ブロズが話しかけた。
俺も話しかけようかどうか迷っていたから、ブロズには感謝だな。
答えは返ってこないかもしれないと、思っていたが、
「うん」
とルイは呟きながら頷いた。
「ボク、一生ここに住んでもいい」
「そ、そこまで……」
意外と普通に喋っていた。
姉のルナがいないと、そこまで無口じゃないのだろうか。
突如、ルイが女湯との仕切りになっている、壁を指さした。
「あっち女湯」
「だろうな」
「覗かないの?」
「覗かねぇよ! 何言ってんだ!」
とんでもないことを尋ねてきた。
ルイは、何で? と言うように首を傾げている。
「いや、覗いちゃダメだろ仲間なんだし。そもそも、仕切りが高すぎて、覗けねーよ」
木で出来た仕切りは、やたら高い。それこそ城の防壁くらいの高さがある。絶対に覗くんじゃねーぞ、と言っているようだ。
「君の身体能力なら、登ることも可能」
「え?」
思わず仕切りの一番上の方を確認する。
確かに全力でジャンプすれば、届かないこともない。
若干、心が動いてしまう。
「ス、スレイ君? 駄目だよ覗きなんて」
と俺の心の動きを察したブロズが、そう言って止めた。
「の、覗かねーよ! 大体仮に登っても、湯気で何も見えねーよ。無意味な行動だ」
「そうか。じゃあ、君は妄想するしかないわけだ」
「妄想もしねぇ!」
こいつ、無口で変なやつだと思っていたが、喋っても変なやつだ。
ただ、ルナがいないときは、喋ることもあるということは分かった。
基本ずっと一緒にいるから、一人でいることってほとんどないだろうがな。
しかし、女湯か。
仕切りが、ふと、目に入る。
い、いや女湯がどうなってるとか、気になってないからな!
○
「温泉楽しみだなー」
一方、女湯ではセリアと、シラファと、ルナが脱衣所で服を脱いでいた。
「むむむ……」
食い入るような目つきで、ルナはセリアの胸を凝視していた。
「な、何でしょうか? 恥ずかしいのであまり見ないでください〜」
顔を赤くして、セリアは胸を隠す。
「そんな立派なものを持っていて、隠すなー! ちょっとでいいから揉ませて!」
「だ、駄目ですよ!」
「巨乳を揉んだら、自分の胸も大きくなるって言い伝えが、私の国にはあったのよ」
「出鱈目ですよそんなの!」
セリアとルナがギャーギャーと騒いでいるのを、シラファは冷ややかな目で見る。
ルナの視線は、セリアからシラファに変わった。
「す、すごい綺麗な肌。それにスタイルめっちゃいい」
シラファの肌は真っ白で、シミひとつなく、まるで芸術品のような綺麗さだった。
背が高くて、肉も引き締まっており、スタイルも完璧に近かった。
「まあ、胸はセリアちゃんの方が大きいけど」
唯一、胸がそれほど大きくないというところは、欠点だと言える。
「ふん。胸など大きくても、戦闘の邪魔にしかならん」
「そうですよー。弓を射る時とか、結構神経使うんですよねー」
シラファの言葉に、セリアが同調する。
「スレイ君が巨乳好きだと知っても、同じセリフが言えるかな?」
「何?」
「え? スレイさん巨乳好きなんですか?」
「聞いたことはないけど……男はだいたい巨乳が好きなのよ!」
「えー? そ、それは偏見では?」
「そんなことないわ。私にはずっと一緒にいる弟ルイがいるけど、ルイは、十歳以上年上の巨乳のお姉さんが、好みのようね」
「さりげなくばらしてはいけない情報を、バラしませんでしたか今!?」
「スレイ君も、年上好きかは分からないけど、巨乳好きなのは絶対ね」
「ルナさんは男の人に詳しいんですね」
ルナは内心動揺する。
確かにルイと一緒にいるので、ルイという男には詳しい。
しかし、それ以外の男性と付き合った経験などなく、男に全体に詳しいとはとてもいえない。
しかし、見栄を張りたいという気持ちが湧いたルナは、胸を張り、
「ま、まーね。色々経験してるからね」
と言い切った。
「スレイ……巨乳……」
シラファは、セリアと自分の胸を見比べながら、そう呟く。
大きさが明らかに違う。
ジロっと、シラファはセリアの胸を睨んだ。
「ちょ、ちょっと……! あきらかにシラファさん不機嫌になってますよ!」
「うっ! シ、シラファちゃんは胸以外がめっちゃ綺麗だから、全く弱点になってないわよ! 総合的にセリアちゃんに完勝してるわ」
「か、完勝って酷くないですか!?」
「あ、いや、シラファちゃんを慰めただけで……その……セリアちゃんも十分魅力的よ!」
三人は脱衣所で、しばらくわーきゃー言い争った後、ようやく湯船に浸かった。
「あー、きもちいわねー」
「ですねー」
「悪くないな……」
三人は、気持ちよさそうに湯に浸かる。
そのまま、ゆっくりと湯船に浸かり続けて温泉を堪能した。