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俺たちは慎重に先へと進む。
それから何体か、植物に擬態して不意打ちしてくるモンスターがいたが、見ていたのである程度余裕を持って対処することが出来た。
「ラーマの実ありませんねー」
セリアがキョロキョロと周囲を確認しながら言った。
大きい実と言っていたから、発見できると思っていたけど、そう簡単に見つかるものではないのかもしれないな。
「ん? 何ですかあれ……花?」
セリアがそう呟く。俺たちの目では見えない。
少し近付いて確認すると、確かに緑の花が咲いていた。
何というか、ただの花ではないようなそんな感じがする。嫌な雰囲気を感じる。
もしかしてモンスターでは……
そう思っていたら、いきなり花が動き出し始めた。俺の予想は当たっていたようだ。
花のモンスターは緑だった花の色が、いきなり黒くなった。
すると周囲が徐々に薄暗くなって、完全に視界周りが見えなくなってしまった。
「う、うわ! 真っ暗!!」
「さっきの花の力か!」
見えなくなったのは俺だけじゃないようで、仲間たちの困惑した声が聞こえてくる。
「さ、最悪です! せっかく視力が戻ったのに、また見えなくなるなんて!」
一番動揺しているのはセリアのようだ。
セリアに限らず、視力は当然重要だ。特に仲間たちが周りにいるこの状況では、無暗に攻撃することが出来なくなる。
ど、どうする?
迷っていると、
「ここは私に任せろ」
シラファの声が聞こえてきた。
見えないのにどうする気だ?
そう思っていると、槍を振る音が聞こえてきた。
た、戦っているのか? いや、怖いんだが、間違えて俺たちを斬ったりしないだろうな?
任せろと言ってたし、信じてみるか。
恐怖を感じながら待つこと数十秒後、光が戻り辺りが明るくなった。
どうなった?
確認すると先程の花のモンスターが、魂力となりシラファに吸収されていた。
シラファがやったのだろうが、どうやって暗いのに敵が斬れたんだ?
「どうやったんだ?」
「元々私は視覚だけに頼って戦闘はしていない。敵の気配や音で場所を正確に判断できる」
それは中々凄いな。
そもそも、音なんて俺には聞こえなかった。あの花も暗闇の戦闘に特化していたのだろうか、音を立てずに忍び寄るすべを持っていたはずだ。
僅かな音でも聞き逃さない、聴力と集中力がシラファには備わっていたのだろう。
「凄いなシラファは。助かった」
「こ、これくらい出来て当然だ」
シラファは顔を赤くしてそう答えた。褒められて照れているようだ。何か新鮮な反応だな。
「それにしても騙し討ちしてきたり、視界を奪ってきたり、何か嫌らしい戦い方してくるモンスターばっかりだね」
確かにブロズの言う通り、自分の戦闘力だけで勝負してくるモンスターは出てこない。
「俺としては力勝負してくれた方が、楽だったけどな……」
正直からめ手で来られるのは、対処法に困る。
「毒とか使ってくる奴いるかも」
ルナが言った。そう言うのが一番いやだな。
毒に対する耐性なんてないし、相手が弱くても毒が当たって死んでしまうかもしれない。
器が一個しかなく、まだ一個分が一杯になってない俺は、死んだら終わりだ。町長の話だと、死んで生き返るのは器一個分の魂力が必要だというのは、器に入る魂力の量が関係ないようだからな……
とにかく、警戒して不意打ちだけは絶対に食らわないように、先に進もう。