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ビッツとガジットの身柄をミファエラに引き渡した後、夜になっていたので宿に泊まることにした。
迷宮を出ることに成功したが、まだからくりの塔の完全攻略をしてはいない。もう一度行く必要があるため、明日行くことになった。
宿ではそれぞれ別の部屋で寝ることになった。ルバが多く手に入ったので、問題なく部屋は借りることが出来た。
部屋に入り、寝ようとすると、ドアがコンコンと叩かれた。
誰だ? と思ってドアの方を見ると、「私だ。入っていいか?」とシラファの声が聞こえてきた。
俺の部屋にシラファから訪ねてくるとは、どういう風の吹き回しだろうか。疑問に思ったが、断る理由もなかったため、「いいぞ」と許可を出した。
ドアが開いてシラファが入ってくる。
「突然済まない。借りを返す方法が中々考えつかなかったんだが、それがようやく思いついたから来た」
「そんなことを考えていたのか……別にいいといってるんだがな」
「いや、どうしても返さないと私の気が済まない」
「そうか。で、具体的に何をするんだ?」
「私を抱いてくれ」
「は?」
あまりの発言に聞き間違えかと思った。
「男は女を抱きたがるものだと、昔聞いたことがある。これで完全に返せるか分からないが、やってくれ」
「ま、待て、お前抱くって意味が分かっていってんのか?」
「ああ、抱き着いた後、キスをしたりするのだろう。スレイとなら、特に不快感は感じないと思うし、問題ない」
「いや、キスもするだろうが、普通抱くって言ったらそれだけじゃなくて、裸になってから、あれをああするもんじゃないのか」
「は、裸?」
シラファは赤面した。服は着たままだと思っていたのだろうか。俺と同い年くらいなのに、そう言う知識はかなり薄いようだ。多分、今まで他人と関わって生きてこなかったのだろうから、常識的な事を知らなかったりするのかもしれない。
「少し恥ずかしいが、裸になれというのなら……」
シラファは服に手をかけて脱ごうとしたので、俺は慌てて止める。
「待て待て! あのな、そう言うのは好きになった同士でやることで、借りを返すとかそんなことでするのはおかしいんだ」
「そ、そうなのか?」
俺の言葉を聞きシラファは脱ごうとしていた手を止める。
「そうだ。どうしても借りを返したいなら、ほかの方法を考えるんだ」
「ほかの……と言っても思いつかない」
「シラファは強いんだから、その実力を生かして俺たちを助けてくれればいい。首なしとの戦いだって、最後はお前がいなければ勝てなかったわけだからな。あんな感じで俺たちを助けてくれよ」
「でも、私よりお前の方が強い。そうなると、私が助けられる方が多くなってしまう。やはり別の方法で……」
「お前は器十一個もあるんだから、いずれ俺たちの中で一番強くなると思うぜ。俺の器一個は普通より容量が多いとはいえ、十一個分はないだろうしな」
「そ、そうか……そうだな……」
シラファは納得したのか部屋を出ていった。
しかしビビった。抱いてくれとは完全に予想外だった。
よく考えればシラファは物凄い美人だ。最初会った印象は、美人というより、目つきの怖さが印象に残っていたけど、今は表情が結構変わったりするので、怖さは薄れていた。
つまり今は会った時より、より美しく感じるわけだ。
俺も男なので、先ほどのシラファの顔や匂い、表情を思い出して、惜しいことをしたなぁ、という思いが僅かに脳裏に浮かんできた。
何を考えているんだと、首を横に振る。仲間をそんな風に見てはいけないだろう。
若干悶々としながらも、俺はベッドに入り眠りについた。
〇
翌日。
「さーて、からくりの塔に再挑戦ですー。あ、外部の人は入れず、四人だけで行った方がいいですね」
「それはそうだ」
またビッツやガジットみたいな奴らに当たったら、最悪だからな。
「出発前にちょっといいか。言っておきたいことがある」
シラファがそう言ってきた。
俺たちは足を止めて、シラファの話に耳を傾ける。
「今までの借りを返すため、私は誰よりも強くなってお前たちをたくさん助ける」
昨日俺と話して結論を出したようだ。女に助けると言われて、男としては何だか妙な気分だが。
「はい、頼りにしてますよ、シラファさん!」
「男としてはちょっと情けないけど、シラファさんは強いから頼りにしてるよ」
セリアとブロズがそれぞれそう言った。
俺の返答を求めているのか、シラファがこちらを見つめてきた。
黙っているのは何なので、言葉を選んで口を開いた。
「俺も頼りにはしてる。まあ、そう何度も助けられるつもりはないがな」
シラファは「ふん、お前にその気がなくても、何度でも助けてやる」と強気な口調で言った。迷宮に入って一度死んでから、若干気を弱くしていたが、前までの調子が戻ったようだ。
「よし、じゃあ行くか。からくりの塔へ」