33
ビッツとガジットが酒場に入ってきた。現在客の数は少なかった。
この酒場は元々あまり人気がないのか、たまたま人が少ないのか分からないが、これは都合がいい。
この二人は常連なようなので、ほかに冒険者がいた場合、こいつらの味方をする奴らが出てくる可能性があり、そうなると面倒なことになるが、今は客がほとんどいないのでその心配はない。
「行くぞ」
俺がそう合図をすると、三人は頷く。立ち上がって、ビッツとガジットの前まで歩いた。
「よう、数日ぶりだな」
俺が声をかけると、ビッツとガジットは、信じられない物を見るような目でこちらを見てきた。
「お前ら……どうやって外に」
「モンスターどもを倒して普通に出ただけだ」
「馬鹿な。あそこから出てきた初心者冒険者は、今まで一人もいなかったはずだ!」
「今までお前らが騙してきた冒険者が、ヘボだったってだけだろ」
ビッツとガジットは俺たちを不機嫌そうな表情で睨み付けてきた。出てきたことが気にくわないようだ。
「今からお前らを町長の家に連れていく。大人しくしていれば、危害は加えずにおいてやる」
そう言うと、ビッツとガジットは笑い始めた。
「ハッハッハ、迷宮を脱出したからって良い気になりすぎだ。俺たちがお前らより先輩の冒険者だってことを忘れるな。てめーらなんか一瞬で叩きのめせる」
「下手な騒ぎは起こしたくねーし、今すぐ僕たちの前から消えるのなら、見逃してあげるよ」
明らかに余裕がある感じだ。確かにこいつらの方が冒険者としては先輩だし、勝てるとは限らない。とはいえ、こいつらを見逃すなんてことはあり得ない。
剣を抜いて戦おうとすると、最初にシラファが動き出していた。俊敏な動きでビッツの足を槍で斬った。全く反応できず、両足を深く斬られて膝をついた。
「ったぁ!!」
シラファの攻撃も早かったが、向こうも反応が全然できていなかった。弱いぞこいつら。
俺はガジットを狙う。武器を構えているガジットの手首を狙った。斬り落としはしなかったが、深い傷をつけ動かせなくした。そのあと、シラファと同じく足を斬り、行動不能にした。
魂力では死んで復活できるが、深手が自動で治ったりしないようだ。ただ死んだら全快するのだろう。手足が斬られて欠損しても、死んだら生えてきたりするのだろうか? 試してみないと分からないが、やる気は起きないな。
「は、早ぇ……クソ……」
「女の方はともかく、な、何で器一個の奴が強いんだ……」
倒れながら苦しそうにうめいている。
「今からお前らを町長に連れていく。妙な抵抗はするな。勝てないのは分かっただろ?」
二人はあくまで反抗的な目つきで俺たちを見る。大人しく付いてくる気はないようだな。動けなくしているとはいえ、今のままだと運びにくい。魔法を使ってくる可能性もあるし。どうやって運ぼうか考えていると、
「おいてめぇら」
後ろから声をかけられた。酒場のマスターだった。厳しい表情をしている。常連を傷つけられて怒っているのか? 無関係の人は巻き込みたくない。説明してわかってくれるといいが。
「これは……」
「そいつらを町長のところに連れていくなら、この縄で縛ればいい」
マスターは俺に赤色の縄を渡してきた。
「こいつで縛られると力が出せなくなるし、魔法を使えなくなる。全く抵抗できなくなるってわけだ」
「ありがたいけど……何でだ? こいつら常連じゃなかったのか?」
「こいつらが悪党だってのは、よく分かっている。マナーもクソ以下ではっきり言って嫌いだったからな」
二人の邪悪さはマスターはお見通しだったようだ。
「ありがとう」とお礼をいい、縄を受け取った。
俺たちは縄でビッツとガジットをグルグル巻きに縛る。そのあと、肩で担いだ。縄の力なのか、全く暴れたりはしない。これなら楽に運搬できる。
最初に広場へ行った。地図で町長の館の場所を調べた。場所は広場の近くだったため、すぐに行くことが出来た。
夜に訪れていいのか分からなかったが、早いところ引き渡したかったので、外から声をかけた。
しばらくして館の扉が開く。
「何かご用でしょうか?」
女性が出てきた。最初に俺たちをファーストシティへと案内したミファエラだ。この家に住んでいたのか。
俺は事情を話す。
「最近初心者冒険者のからくりの塔制覇率が下がっていましたが、もしかしてそれが原因だったのでしょうか。まあ、まだその話が本当だと決まったわけではありませんが」
ミファエラは半信半疑だという感じだ。
「町長は今はお休みですので、私が代わりに裁きを下しましょう。その二人を下ろしていただけますか?」
「分かった」
ビッツとガジットを地面に下ろした。
ミファエラは、口元の縄をほどき、口が利けるようにする。
「魔法でスレイさんの言ったことが本当か、調べることは容易いです。しかし、それには大量の魂力を消費してしまいますので、なるべく使いたくはありません。自白していただけると楽なのですが」
「死刑になるのに自白なんかするか!」
「自白して頂いたら、罪を軽くすることは出来ますよ」
「ほ、本当か?」
なんか妙な展開になってきた。自白するだけで、罪が軽くなって罰金刑とかになったら、流石に問題があると思うが。
ビッツとガジットは顔を見合わせて、そのあと自白をした。
俺たちを罠に嵌めたこと、そして俺たち以外の冒険者も罠に嵌めたこと全て告白した。
「ありがとうございます」
「これで罪は軽くなるんだろうな!」
「ええ、なりますよ。拷問からの処刑から、なるべく痛みを与えない処刑に変えましょう」
「「は?」」
二人は間の抜けた声を出した。
「て、てめー騙したな!」
「騙してはいませんよ。私は罪を軽くすると言っただけです。拷問からの処刑は本当にきついですからね。あなた方は正しい選択をしたと思いますよ。普通の処刑でも、器があるから何度も死なないといけないので、楽ではないですけどね」
微笑を浮かべながらミファエラは言った。
確かに嘘は付いていないが、中々あくどいやり口だ。この人、結構怖い人かもしれない。
「それでは彼らを地下牢へ運んでください」
ミファエラが屋敷の中にいる誰かに命じた。男三人が急いで駆けつけてきて、ビッツとガジットの二人を運んでいった。
「二人の処刑は近日中に行われます。運んできた人は見る資格があるのですが、どうします?」
「俺は遠慮する」
悪党とはいえ、人が死ぬのを見て良い事などないだろう。
俺以外も同じく見ないと答えた。
「そうですか。今回は悪党を捕まえてきていただき、誠にありがとうございます」
ミファエラは深くお辞儀をした。
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